国内最大級のHIPHOP fes「THE HOPE 2024」総勢59組のライブアーティストと29組のDJが出演し、約4万人のオーディエンスと共に初の2daysが閉幕
2022年に始まり、今年で3回目を迎えた大型ヒップホップフェス「THE HOPE」。昨年から会場をお台場に移しての開催となり、今年はさらに2daysへと拡大。総勢59組のライブアーティストと29組のDJが出演し、国内最大のフェスとして着実に進化を遂げてきた。DJを手厚くフックアップするのはTHE HOPEの特徴だが、それ以外にも、会場で展開されるコンテンツは充実の一途をたどっている。
ASIAN CAN CONTROLERZ(TOMI-E & 鬼頭)がペイントし、ANARCHYも参加した全長約50メートルのグラフィティウォール、KANEが描いていた車へのペインティング、さらに漫画『スーパースターを唄って。』の作者・薄場圭によるアーティストビジュアル看板など、会場を歩いていると至るところからヒップホップカルチャーの香りが漂ってくるような作り。
フードも充実しており、MEXICO CITY育ちのAKLOが本場の味を再現したという「AKLOのTacos by GEORGE」、レーベル<プラズマ企画>の代表でありアーティストのPERSIAが考案した「PERSIA ROLL UP」など、20種類以上の店が並んでいた。アーティストコラボはグッズ売場にも及んでいて、IOがクリエイティブ・ディレクターを務めるジュエリー/ライフスタイルブランドRAYDBACKと「THE HOPE 2024」のタオル、デザイナー長嶺信太郎の手がけるel conductorHとDADA、「THE HOPE2024」のTシャツ、ストリートブランドTRAVSと「03-Performance」、「THE HOPE2024」のシャツ、といった具合いに、数多くのダブルコラボ~トリプルコラボがズラリ。起業家へ転身したYZERR(BAD HOP)の例を挙げるまでもなく、元々ラッパーたちはビジネスに対して貪欲であり、そういったヒップホップの志向を丁寧に掬いあげた形にも見える。
主催者側は今年のフェス開催前のインタビューで「将来的に、もっと港区や地元の商業施設、自治体と連携してストリートっぽさを演出するというか、一過性のイベントだけではなく、THE HOPEを軸にしつつその前後でカルチャー色を出していけたら」と語っていたが、まさにそういった構想につながる場の編集になっていた。
お台場で開催してきた音楽フェスというと「ULTRA JAPAN」をはじめとしてこれまでもいくつか例があるが、人工的かつ無機質な地域だけに、カルチャーというよりもエンタメ色の方がマッチするように思う。だからこそそこにあえてヒップホップ文化を根づかせようというのは非常にヴィジョナリーな発想で、都市と音楽の関係性を考える上でも今後の動向が気になるところだ。THE HOPEはABEMAで「HIPHOP MAGAZINE -THE HOPE-」という番組もスタートさせたが、フェスというリアルの場だけでなく、そういったマスメディアを活用しての情報発信にも意欲的なのが興味深い。協賛パートナーのサポートも多く(※文章下部参照)、多角的に、本腰を入れてカルチャーを創っていこうという姿勢が見て取れる。
さて、各ラッパーの充実したパフォーマンスは公式から発信されている多くの写真や動画を見ていただくとして、本稿ではTHE HOPE 2024から見えた傾向、あるいは展望について考えてみよう。アジェンダとして、以下の2点を挙げたい。
1) Education&Entertainment
2) Unity&Peace
まず、1)Education&Entertainmentについて。ここでは、はじめに観客の属性について触れておこう。今年の「THE HOPE」は20代が7割以上を占めており、昨年までと同様に若い層の占有比が非常に高いイベントとなっている。来場者の性別は男女半数ずつで、女性の割合がやや増えたとのこと。
さらに、南関東からのアクセスが6割を占めているよう。ちょうど同じ日に来日公演を行なっていたNasとなるともちろんそうはいかず、もはや同じヒップホップで括るのが難しいくらいに異なる客層だ。若者には若者の価値観があり、お金も時間も限られている中で、いまUSのヒップホップがなかなか聴かれづらくなっている状況なのは間違いない。
また、ヒップホップがこの数年で急速に浸透してきた中で、ライブでの観客としての振る舞い、あるいは楽しみ方がユース層の間にまだ根づいていないタイミングでもある。
そういった状況下で、今年のTHE HOPEでは、観客との意思疎通に苦しみながらもコミュニケーションに務めるアーティストが目立った。例えばYoung Cocoはモッシュピットを作る際に「えっ? 普段クラブでやってるやん? 真ん中あけて!」とリル・ウージー・バートやプレイボーイ・カーティのライブで見られるようなモッシュ作法を粘り強く伝えたり、ゆるふわギャングのステージでNENEは「(手を縦に振る仕草をしながら)これやめて? うちらの音楽にこれ合わないから」と笑顔でノリ方を教えたりしていた。特にDJ陣はそういったエデュケーションに積極的で、多くの人が国内と海外の曲をバランスよく繋げ、どうにかUSラップの魅力も伝えようと苦心していたように見える。中でもFUJI TRILL(OVER KILL)のステージは、「ボケ死ね」などのキラーチューンとトラヴィス・スコット「FE!N」などのUSラップをバランス良く繋げ、二日間で最もドープな時間を作り出していた。途中サプライズでrirugiliyangugiliまでもが乱入する事態になり、ヒップホップの多様な側面を見せることに成功していた。
そういった中で、THE HOPEが屋外の開催であるというのは、このフェスのカラーを決める要素として重要だろう。まず、開放感がある。陽が落ち、海風に吹かれながら聴くグッド・ヴァイブスなサウンド――例えば¥ellow Bucksなど——は最高だ。一方で、特に一日目はまだまだ気温が高く陽射しも強く、かなり体力が削られたのは確か。アーティスト側も疲労でどんどん動けなくなっていく観客を盛り上げるのに必死で、「もっと大きい声出せるだろ?」という定番の煽りを、煽りではなくリアルな訴えとして発言していたように思う。
観客のヒップホップリテラシーの問題なのか気候による疲労の問題なのかは判断が難しいが、とにかく全員が盛り上がるようなアンセムと、エデュケーションの意味合いを込めた曲との配合が非常に難しいフェーズに入ってきているのは確か。来年以降、そういった匙加減をどのあたりに定め落としどころを探っていくのか、多くの演者が悩んでいるタイミングなのではないだろうか。
次に、2)Unity&Peaceについて。二日間で最も盛り上がったステージの一つがAK-69とDJ RYOWのスロットだったが、そこでパフォーマンスされた「My G’s feat. SEEDA」、プレイされた「知らざあ言って聞かせやShow(Remix)feat. ZORN」は、ヒップホップ史への言及を含んだ非常に重要な曲だった。AK-69とSEEDAは次から次に怒涛のネームドロップを繰り出し、ZORNは「俺だけじゃねえ 俺らで発展させる日本のHIPHOP 舐めんじゃねえ」というリリックでTOKONA-Xの偉業に花を添える。ヒップホップとは常に自己言及と自問自答を繰り返しながら緊張感を保つ言論ゲームであるが、リスナーの価値観も様々に多様化している今の時代だからこそ、こういった大型フェスの場でステートメント的に発せられる歴史性を内包したUnityの精神は、その意義が増してきているように思う。
あるいは、そういった言及を最後「縁/何かの縁」と結んでいたAK-69とSEEDAのリリックも印象的だった。当然それは、プロデュースに入っているChaki Zulu=YENTOWNに対するリスペクトの意味もあるだろう。Awichのステージで集結したYENTOWNのメンバーも「縁」を強調していたが、こうやって何人ものラッパーがUnityを表現する際に「縁」というフレーズを連呼するのは興味深い。アメリカのヒップホップは、人種差別と階層格差の中で黒人が作りあげてきた表現の場がコミュニティ基盤として確立されてきたが、日本の場合、コミュニティの人々を繋ぎとめているのは“ヒップホップが好き”というモチベーションそのものである。それを私たちは「縁」と呼んでおり、どうしてもふわふわした脆弱なものだからこそ、こういった場でUnityを確認し合う必要があるのだろう。
また、Unityだけでなく、ヒップホップに息づいてきたPeaceな空気が顕著になったのも今年の傾向だったように思う。昨年のTHE HOPE以降に起きたBAD HOPや舐達麻を巻き込んでの大きなビーフの収束、それらに代わって現れた千葉雄喜の「チーム友達」の大ヒット。今回はJin DoggやYoung Cocoはもちろんのこと、ステージに次から次へ大勢の友達を呼んでのパフォーマンスで、その度にモッシュが起こる盛り上がりだった。これだけヒップホップのスタイルが多様化する2024年に、全員が合唱できる曲が生まれたというのは凄い。スマホを掲げながら踊り歌う大観衆を取りまとめる千葉雄喜の存在はとても大きく見えたし、彼が全世界に向けて友達とのUnityを歌ったという、ピースフルなムードがフェス全体にも波及していたように思う。実際、ビーフの発端の一つとなったジャパニーズマゲニーズは、ステージ上で改めて謝罪。そういった背景もあり、ヒップホップが好きな者たち同士Unity&Peaceを再確認する場として、ポジティブな意味合いを強めていた。
他にも、観客をアカペラの技巧的なラップで挑発したR-指定(Creepy Nuts)や、兄妹で涙の共演を果たしたLEX&LANA、さらにXGのメンバーがサプライズ出演したAwichのステージなど、見所が満載だった今年のTHE HOPE。最後は、¥ellow Bucksが東海人脈を広く呼んでのパワフルなパフォーマンスで締めくくった。派手な演出に頼らず、ラップ一本で押し通すスタイルが¥ellow Bucks らしい。AK-69、MaRI、C.O.S.A.と共演した「Bussin’ REMIX」から、SOCKSも加わった「チーム友達 (東海 Remix)」の流れは、二日間におけるハイライトシーンだった。
ヒップホップを取り巻く環境が激変する中で、こういった大型フェスは現行シーンの「今」を鮮やかにキャプチャしつつ、皆が一度立ち止まって大切なものを振り返る場としても機能しているように思う。変わらないものと変わりゆくもの、その双方を見守りながら流動的に形を変えていく――それがヒップホップだと、改めて感じた二日間だった。
(文・つやちゃん)
※協賛パートナー:adidas/CHARGE SPOT/LIVEDAM/UNIVERSAL ENTERTAINMENT/1800TEQUILA/360 REALITY AUDIO/ARMAND DE BRIGNAC CHAMPAGNE/Budweiser/COCALERO/DEFENDER/Hennessy/Jose Cuervo/SMIRNOFF/ULT POWER SOUND/笑顔道/MR.BROTHERS CUT CLUB/Nile Soundsystem
■THE HOPE 公式SNSアカウント
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