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2023.01.28

開館10周年「横尾忠則展 満満腹腹満腹」これまで開催された約30本の展覧会を詰め込んだ記念展が開幕

横尾忠則現代美術館の開館10周年を記念し、これまでに開催した企画展をダイジェストで振り返る展覧会、「横尾忠則展 満満腹腹満腹」を開催する。2012年の開館以来、様々な角度から横尾忠則の芸術に光を当ててきた。10年前の開館記念展「反反復復反復」のセルフ・パロディーでもある本展では、限られた展示空間にこれまで開催された約30本の展覧会を限界まで詰め込む。そこに立ち現れるカオス的な空間は、86歳を過ぎてもなお精力的に制作し続ける横尾の尽きることのないエネルギーを象徴するものとなるだろう。

1.技法・造形

本展は、これまで開催された30本の企画展を、年代順にダイジェストで紹介している。まず制作の手法や技法、造形的な特徴に着目した展覧会を紹介。記念すべき開館記念展「反反復復反復」は、実は作家自身の発案によるもので、同じモチーフを何度も繰り返し再生産するという、横尾ならではの手法に着目したものだ。「枠と水平線と・・・」は、これまでのところ唯一のグラフィック作品(ポスター)中心の展覧会であり、また横尾忠則現代美術館で初めてゲスト・キュレーター(当時兵庫県立美術館の学芸員だった出原均)を迎えたものでもあった。様々な造形的な切り口から横尾のポスターを分析し、それらが実は極めて絵画的な思考に裏付けられていることを示す試みとなる。

「カット&ペースト」は、80年代末から90年代初頭にかけて、要素を切り貼りするコラージュ的な性格が前面に押し出された一時期に着目し、その造形思考に迫ろうとするものだ。また「横尾さんのパレット」は、他の要素を一切度外視し、作品を「色彩」のみを基準に分類するという、ありそうでなかった試み。シンプルなコンセプトから、企画者自身も横尾も驚くような華麗な空間が立ち上がった。

2.モチーフ・シリーズ

「肖像図鑑」「HANGA JUNGLE」などの展覧会は、横尾の作品の中でもまとまった数量のあるシリーズ作品などから構成したものだ。「肖像図鑑」では、横尾の代表的なポートレート・シリーズである「奇縁まんだら」「文豪シリーズ」を中心に、歴代最多の約600点もの作品により、人物表現の妙を紹介した。同展の中心となった「奇縁まんだら」は、瀬戸内寂聴のエッセイの挿絵として制作されたものだが、「幻花幻想幻画譚」は同じく瀬戸内の時代小説「幻花」のために制作された挿絵と扉絵、計371点を紹介。70年代の横尾ならではの鬼気迫る細密描写は見応え充分で、さらに一部の挿絵を壁画サイズに拡大することで、まるで物語の世界に入り込むかのようなディスプレイも大きな見どころとなった。

「HANGA JUNGLE」は町田市立国際版画美術館との巡回展として企画されたもので、横尾が制作した全版画約260点を紹介。展示面積は町田よりもはるかに狭いが、2段がけ、3段がけを駆使して全ての作品を展示し、ジャングル感満載の濃密な空間が出現した。

3.アーカイブ

横尾忠則 大涅槃展 2015年1月24日(土)~3月29日(日)

横尾忠則現代美術館では、横尾の作品にとどまらず、その背景に迫る関連資料を整理・公開するアーカイブ・ルームを併設している。特にグラフィック・デザイナー時代の横尾は、文学、音楽、映画、演劇など同時代のクリエイターたちとコラボレーションし、数々の名作ポスターを生み出してきた。そうした交流の様子を窺い知ることのできる資料の数々は、横尾芸術のみならず、戦後文化の歴史を知る上でも貴重なものといえる。「記憶の遠近術」は横尾忠則現代美術館で唯一、横尾以外のアーティストをフィーチャーしたものだ。写真家の篠山紀信が60~70年代に横尾と、横尾にとってのアイドル的な人物とのツーショットを撮影したシリーズ写真を中心に紹介をした。「大涅槃展」では横尾が一時期熱狂的に収集していた涅槃像コレクション約600点を展示。涅槃像といっても、お釈迦さまから水着の美女に至るまで、もはや寝そべっていればなんでもありか? と思うほど多種多彩である。それらが一堂に会すると、強烈な磁場が発生し、聖俗が渾然一体となった横尾ワールドが立ち上がるのだ。

4.美術館コスプレ

横尾忠則どうぶつ図鑑 YOKOO’S YOKOO ZOO 2013年7月13日(土)~9月16日(月・祝)

兵庫県立横尾救急病院展 2020年2月1日(土)~8月30日(日)

横尾忠則の恐怖の館 2021年9月18日(土)~2022年2月27日(日)

美術館が他の施設に化けるこれらのシリーズ「美術館コスプレ」。「どうぶつ図鑑」はいわば美術館を動物園化するもので、動物をモチーフにした横尾作品に加えて、神戸市立王子動物園とコラボレーションし、同園が所蔵する様々な動物の剥製が館内のそこかしこに鎮座した。エレベーターを降りたら巨大なホッキョクグマがいたり、ペンギンがペンギンの絵を鑑賞していたりと、前代未聞のへんてこりんな展覧会が開催された。「救急病院展」は「病気と入院が趣味」という横尾の生き方を通じて、そのアートの秘密に迫る試みである。たまたま県立病院の統廃合のタイミングと重なり、要らなくなった医療器具をたくさん提供してもらえたことから、リアルな病院のような空間で作品を鑑賞するという、なんとも奇妙な展覧会となった。「恐怖の館」は美術館をお化け屋敷化したもので、舐めてたら案外怖い、ということで人気に火がつき、まさかのヒット作に。

5.やけくそ

横尾はとても自由なアーティストゆえに、スケジュール通りに物事が進むとは限らない。出品依頼できるタイムリミットを過ぎ大慌てで企画したのが「在庫一掃大放出展」である。横尾忠則現代美術館で展示実績のない作品(未発表ではなく)ばかりを集め、「蔵出し」のニュアンスを込めたタイトルとし、のぼりを立てたり監視員さんにハッピを着てもらったり、全体にセール会場のような雰囲気の演出を行った。

2020年にはコロナ禍により、他館や個人から作品を借用することが難しくなり、またしても大慌てで所蔵・寄託品のみによる「緊急事態宣言」展を開催し、横尾忠則現代美術館の歩みは「天才」と「天災」に翻弄され続けた10年でもあった。

INFO

横尾忠則展 満満腹腹満腹
HP:https://ytmoca.jp/
期間:1月28日(土)~5月7日(日)
会場:横尾忠則現代美術館
住所:兵庫県神戸市灘区原田通3-8-30
時間:10:00~18:00 ※入場は閉館の30分前まで
観覧料:一般¥700、大学生¥550、70歳以上¥350、高校生以下無料
主催:横尾忠則現代美術館([公財]兵庫県芸術文化協会)、神戸新聞社

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