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2021.09.08

【監督にインタビュー】映画「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」本人が登場!貴重なドキュメンタリー

常に時代の美的価値に挑戦し、服の概念を解体し続けたデザイナーのマルタン・マルジェラ。業界に大きなインパクトを与えるも、公の場には登場せずに取材・撮影NGを貫いてきた。しかし2021年9月17日(金)に上映開始する「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」では、「このドキュメンタリーのためだけ」「顔は写さない」という条件のもと、カメラの前に本人が登場! これまでのキャリアやクリエイティビティ、プライベートをマルジェラ自身が語る。今回はドキュメンタリーのあらすじを解説。そして不可能とも思える作品撮りを可能にしたライナー・ホルツェマー監督にインタビュー。

公の場に登場しない「マルタン・マルジェラ」とは?

「メゾン・マルジェラ(旧メゾン・マルタン・マルジェラ)」の創業者・デザイナー。80年代に華やかで煌びやかなファッションが盛り上がる中、それらを否定するように、古いものを破壊し再構築して生み出したコレクションを発表。1997年から2003年にかけては、フランスのラグジュアリーブランド「エルメス」のデザイナーも担う。当初から常に新しい美的価値に挑戦しファッション業界にも大きい影響を与えるが、デビュー早々ある理由によって公の場には一切登場しなくなり「インタビューは受けない」「写真はNG」を貫いてきた。そして2008年に行われたメゾン・マルタン・マルジェラ20周年を記念するショーが終わった日に突然の引退。メンバーに何かを告げることもなく、ファッション業界を立ち去った。

謎の天才デザイナー、マルジェラが語る!貴重なドキュメンタリー映画

マルジェラが初めて作った服は、イヴ・サンローラン風のブレザー。「すでにマルジェラのモデルっぽい」と本人は語る。

「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」では、これまで撮影や対面インタビューに応じなかったマルジェラが、キャリアやクリエイティビティについてカメラの前で語る。幼少時代にドレスメーカーの祖母から受けた影響のことや初めて作ったバービー人形の服などのプライベートな部分から、ジャン=ポール・ゴルチエのアシスタント時代やデビュー当時のこと、エルメスのデザイナーに就任したときなどのキャリアの話まで明らかにする。

「いつも自分を追い込んできた。発見を求めて無理をするのが好きなんだ。僕は自分に厳しかった」

ストリートでスカウトした一般人をモデルに起用したり駐車場でショーを行ったりと、当時は誰も思いつかないような、新しくて斬新なアイデアを取り入れ続けてきたマルジェラ。業界に大きなインパクトを与えたマルジェラが登場するドキュメンタリーでは、最高のクリエイションができるまでのマルジェラ自身の苦難や考え方を垣間見ることができる。ファッションが好きな人が楽しめるのはもちろんのこと、今成し遂げたいことがあったり何かを始めたいと思っていたりする人は、ドキュメンタリーにインスパイアされること間違いなし!

監督にインタビュー「映画が完成するまでマルジェラを繋ぎ止めることが大変だった」

不可能とも思える作品撮りを可能にしたのは、世界的に有名なファッションデザイナードリス・ヴァン・ノッテンのドキュメンタリー「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」を手がけたライナー・ホルツェマー監督。取材を一切受けてこなかったマルジェラをどのように説得したのか?実際にマルジェラに会って話してみたときの印象はどうだったか?など、監督にコメントをいただいた。

――どのように説得して、マルジェラからドキュメンタリーの話の承諾を取り付けたのですか?

運がよかったのは、彼がパリで行う展覧会を準備中だったことです。僕は展覧会のキュレーターにメールを書き、マルタンへメールを回してもらえないかと頼んでみました。でも返信は何ヵ月も来なかった。だから、また頼んでみた。彼のところには、この類のメールがたくさん届きます。つまり多くのフィルムメーカーが彼の映画を撮りたいと思っていたんです。僕の2通目のメールは、彼の手に渡りましたが、他の多くの人も接触していました。マルジェラが信頼を寄せる人たちが僕の「ドリス・ヴァン・ノッテン」を見ていてくれていて、最高の組み合わせだと彼に助言してくれたんです。最初のメールを出してから半年後、ついに返信がやってきました。マルジェラからのメッセージにはこう書いてありました。「もしまだ映画作りに興味があるのなら、会わないか」。

もちろん不安でたまらなかったのですが、僕らはパリで会うことにしました。部屋には3人、女性が1人に男性が2人。僕は彼の風貌を全く知りませんでした。彼の写真はかなり若い頃の数枚しかなかったからです。マルジェラは単刀直入に話を始めました。初めて会ったとは思えませんでした。そして僕が展覧会を撮影して、何らかのものを作ることを了承してくれたんです。

――初めてマルジェラに会ったときの第一印象は?

ジーンズとデニムジャケットにキャップという出で立ちにとても親近感を覚えました。お互いクリエイティブな仕事をしているし、年が近いこともあって、初めて会ったとは思えませんでした。マルタンはとても礼儀正しく、感じの良い人なんです。

――撮影して打ち解けていくうちに気づいた、マルジェラの新たな一面はありますか?

ファッションに対してとてもラディカルな姿勢を持ちながらも、決して複雑な人ではありません。とても本質的な人物です。そして決して妥協しない完璧主義者です。2人きりで撮影をしていて、マルタンがだんだんリラックスしてきたときに、彼の本当の「声」をみつけたときは感動しました。

――映画を作り終えるまでの中で、いちばん大変だったことはなんですか?

いちばん大変だったことは、マルタンをこの映画に参加させて、完成まで繋ぎとめることでした。彼はとても独立心の強い性格で、自分の宣伝など必要としていなかったので、突然消えてしまうのではないかといつもドキドキしていました。

――それでは反対に、いちばん嬉しかったことはなんでしょう?

いちばん嬉しかったことは、私とベルギー人共同プロデューサーであるアミナータ・サンベと一緒に映画を作ることにマルタンが合意してくれたことです。それまでも、彼の映画を作りたいという監督たちはいましたが、彼は断っていたんです。また、この映画が世界中のたくさんの人たちの心に届いたことで、さらに嬉しく思っています。映画が大成功するって、とても素敵なことですね! マルタンの考え方やものづくりが、多くの人をインスパイアしているのだと思います。

――編集作業は大変でしたか?

最終的に撮影した映像は200時間にも及びました。マルタンはごく最初から映画制作や、あらゆる決定に関わっていました。もちろん編集作業に関わることも望んでいたんです。けれど、編集は僕が1人でやらなきゃダメだと主張しました。一歩引いて、この映画をどんな風に見せるべきかを練る必要があったからです。だから映画をどう構成すべきかを映像を見て考える時間が必要だと彼に言いました。4ヵ月間、映像と格闘し、マルタンとは一切連絡を取りませんでした。電話もメールもしていません。もちろん、人づてに彼がすごく不安がっていることは聞いていました。みんなから、どうして彼を編集に関わらせないんだと聞かれると、「ますます混乱するからダメなんだ」と答えました。1人で考える時間が僕にはどうしても必要だったんです。マルタンは主人公ですが、フィルムメーカーじゃありません。もちろん蚊帳の外に置かれるのは、彼にとって辛いこと。僕のものの見方を彼もできると思っていただろうけど、誰にもできないんですよ。

――マルジェラは完成した映画を気に入ってくれましたか?

4ヵ月後、彼を招いてラフカットを見てもらいました。あの時はすごく緊張した。前日ミュンヘンに到着したマルタンと夕食を一緒に食べました。「どんな風にラフカットを見てほしいんだい?」って聞かれた瞬間を忘れることはないだろうね。彼はモニターの前に座り、一見、小学生みたいにピンと背筋を伸ばして、一言も発しないで観ていました。上映が終わると、僕をハグしてくれました。すごく感動し感謝していたよ。そしていかに心を打たれて感激したかをまくし立てました。あのときは僕もすごく嬉しくて、ジーンときたよ。

しかし、いつものマルタンに戻り「細かく詰めていこう」と言い、彼が変更すべきだと思う箇所を話し始めました。分単位のリストを作り上げ、変更を望む箇所は120にものぼりました。そしていつものごとく、僕は変える必要はないと言いました。もちろん、この時点ではあくまでラフカットで、編集作業が完了したわけではありませんでした。数週間後、僕らはミーティングを持ち、段階を踏みながらファイナルカットが完成させました。素晴らしい協力作業でした。フィルムメーカーとして自分のアイデアと戦わなければならない一方で、対象者である主人公をぞんざいには扱ってはなりません。最終的に、相手に「そうだよ、これが僕のポートレイトで、僕の人生だ」と言わせたいしね。

――ひと足先に公開された海外での評価が気になります。

この作品はコロナ禍にあっても、世界的に成功しています。観客の感想はどの国でもよく似ていて、皆マルタンと映画を愛してくれます。この映画において、国境を越えて理解される言語を見出せたことは、私にとって大きなご褒美のようなもので、とても素晴らしい経験となりました。

――この映画はどんな人に見てほしいですか?

ファッションに興味ある人だけでなく、あらゆる人におすすめします。この映画は、パリでファッションデザイナーになりたいという、7歳の頃の夢を叶える男の子の物語です。彼は大人になってその夢を実現しますが、彼を取り巻く世界は急速に変化していき、もうその夢の世界では生きられないと感じるようになります。そして心から愛したその世界を去る決断をするのです。これは普遍的な物語で、皆さんに気に入って頂けると思います。

2021年9月17日(金)公開「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」

【詳細】

公開日:9月17日(金)より全国順次公開/渋谷ホワイトシネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか

「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」Martin Margiela: In His Own Words

監督・脚本・撮影:ライナー・ホルツェマー(「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」)
出演:マルタン・マルジェラ(声のみ)、ジャン=ポール・ゴルチエ、カリーヌ・ロワトフェルド、リドヴィッジ・エデルコート、キャシー・ホリン、オリヴィエ・サイヤールほか
配給・宣伝:アップリンク

■公式サイト:www.uplink.co.jp/margiela
■公式Twitter:@MargielaMovieJP
■公式facebook:@MargielaMovieJP

© 2019 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata Productions

Edit&Text by Seimu Kawahara

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