公開まで2週間! 社会派にアップデートした新「ゴシップガール」から私たちが学ぶべきこと
オリジナルのゴシップガールが最終回を迎えてから9年。これまではキャスト全員がNY・アッパー・イースト・サイドに住む富裕層の白人だったけれど、新シリーズ版「ゴシップガール」では主役の2人と取り巻きのひとりがアフリカ系アメリカ人の若い女性。そのうちの1人、学園の女王ジュリアンはクールなバズカットであったり、同性婚の両親やさまざまなセクシュアリティのキャラクターが登場したりと、マルチカルチャーで多様性に富んだ現代的な設定にアップデートされている。
すでにシーズン1パート1の全話がU-NEXTにて見放題独占配信中で、パート2も12/24に配信開始。シーズン2の製作も決まっている。パート2のスタートを祝して、ジョーダン・アレクサンダー(ジュリアン役)、エミリー・アリン・リンド(オードリー役)、サバンナ・リー・スミス(モネ役)にインタビュー。社会派にリニューアルされた新生ゴシップガールから、私たちが学ぶべきこととは?
オリジナル版よりも「多様性」にフォーカスしたリニューアル版
――これまでキャスト全員が白人だった、アッパー・イーストに住む富裕層の物語の主役を2人のアフリカ系アメリカ人の女性にしています。エピソードにはハーレムを拠点とするラッパーのプリンセス・ノキアも登場していますし、ブラック・ライブズ・マター(BLM)のポスターも登場します。白人特権社会を描いたオリジナルの「ゴシップガール」と違い、リニューアル版にブラックカルチャーを盛り込んだことは画期的だったと思います。
ジョーダン・アレクサンダー(以下、ジョーダン): 新「ゴシップガール」で多様性のあるキャラクターを描くことは、よりよい未来を”みんなで”築くための第一歩になったのではないかと私は思っています。リニューアル版がオリジナルと少し違うのは、“多様性”について正しく表現することにさらにフォーカスしている点。多様性に関する会話のきっかけを作ることで、観て下さる方々が“思いやり”や“進歩的な考え”に対して理解を深めてくださればいいな、と望んでいます。これまで多様性の描写について、私たちの誰もが間違いを犯してきましたが、どこで間違ってしまったのかを認識し、間違いを正しい方向へと舵を切っていく……その姿勢が大切ではないでしょうか。
サバンナ・リー・スミス(以下、サバンナ): この作品が人を惹き付ける理由は多様性にあると私も思います。異なる文化、人種やセクシュアリティだけではなく、人間関係における多様性も描かれている。そして、そういったものが”普通のこと”として映し出されていて、物語のなかでは誰もあえて”多様性”を話題にしないーー。実際にエピソードを観たときに、この多様性の描写が私にとって一番ワクワクした部分でした。
――ファッションも多様性に富んでいますよね。ブラックカルチャーを讃えるブランド、メラニン アパレル(Melanin Apparel)のアイテムも出てきます。
サバンナ: それに、第1話のファッションショーのランウェイのすべての衣装がクリストファー・ジョン・ロジャーズによるものなんですよ。彼はアメリカでとても才能のある若手黒人デザイナー。私があのエピソードで着た紫のスーツも彼の作品で、私は彼のデザインが大好き。ファッションショー自体も本当にかっこよかったですよね。
――ジョーダンさん自身もマルチカルチャーのバックグラウンドをもっていますが、アメリカのメディアはジョーダンさんを「ブラック」、そしてジョーダンさんの恋人が同性の女性であることから「クィア・アクター」と呼んでいます。マイノリティの代表者かのようにカテゴライズされることについてどう思いますか?
ジョーダン: 私自身、そういったことについてはよく考えるんですよね……。私はアイルランド系、ドイツ系とアフリカ系が入った複数の文化や人種が混ざっています。様々なカルチャーがミックスしたバックグランドによるインターセクショナルな経験が私の物の見方に影響を与えています。私が常に心がけているのは、「自分が人より恵まれている部分」を確認し、自分とは違う経験をしてきた人に対して、「私には気付いていないことがあるかもしれない」と認識すること。そのためには、お互いに耳を傾けて、”社会から追いやられている人々”のことを理解しようとすること。もし自分が理解できないとしたら、それは「私の方が無知なのかもしれない」ということに気付きたいと思っています。
――多様性を描いているとはいえ、本作は富裕層の若者の世界に特化しています。コロナで貧困に陥った人も増えている時代に、富裕層の物語を観る意義はどこにあると思いますか?
ジョーダン: 確かに「ゴシップガール」は富裕層の若者の話ですが、彼らが富裕層ではないゾヤや先生たちのようなキャラクターと対比して描かれることで、視聴者はその”格差”に気づくかもしれません。無意識のうちに得た知識だったとしても、そうした格差が存在することを知ることは大切で、社会全体で話し合いを続けていく必要があると思います。
――本作は、シングルファーザー、別居中の母親、同性婚の両親……など非伝統的な家族のカタチも描いています。
エミリー・アリン・リンド(以下、エミリー): 物語で描かれている母と娘の関係性はいつも私にとってはとても興味深いトピック。このゴシップガールでは、母と娘は時にお互いに対して残酷になり得るという点がよく描かれているのではないでしょうか? オードリーは、”完璧な生活”というものを思い描いていて、それがたまたま実現しています。ボーイフレンドとも幸せだし、友達ともうまくいってる。色々なことに対して「これはこうで、あれはああでなくではダメ」という考えがあって、母親は彼女の”完璧な世界”に合わないので無視している……。
――確かに、オードリーは前シリーズのブレアを彷彿とさせる完璧主義者のように見えますね。
エミリー: 私自身、女性だらけの家庭で育ったのですが、オードリーと違うところは、私は仕事を通して流れに身を任せたり、新しい物事やライフスタイルを受け入れたりすることを学んできているような気がします。「自分ではどうにもならないことがある」ということを知っているので、私はそんな自分に拍手を送りたいですね(笑)。そもそも、自分でコントロールできることなんてないと思います。日々そのことを理解していかなければ。全てを受け入れて、「ストレスなく過ごす」のか、そうでないのかを選択することしかできませんよね? そんなことを考えながらオードリーの新たな一面を見るのも面白いと思います。
同性愛、流動的なセクシュアリティ、ジェンダーレスの表現
――セクシュアリティも非常に多様ですね。
サバンナ: 実は、私が演じるモネはこの作品で色々なことを表現していると思っています。アキやマックス、オードリーはセクシュアリティについてオープンで流動的。一方、モネは同性愛者です。黒人の同性愛者で意地悪な女の子というキャラクターは、テレビや映画ではかなり新しくないですか? モネは自分の決定を周りに正当化する必要性を感じていませんし、自分の行動に絶対の自信をもっている。そこが一番魅力的な部分で、私もそんな風になりたいと思っていて、その部分ではモネを尊敬しているんです。
――アキは自分の性的指向を探っている途中ですし、アキとオードリーの関係はモノガミー(※)にチャレンジしているようにも見えます。そういった伝統的な社会規範に外れたセクシュアリティや恋愛関係で迷っている人にエミリーさんは何を伝えたいですか?
エミリー: 人によってそれぞれ状況は違うので一般的なアドバイスはできませんが、もし、オードリーのように、自分の恋人のセクシュアリティが流動的であるならば、まず、「テレビ番組のアドバイスは聞かないで」と言いますね。ゴシップガールに出演する前ですが、昔付き合っていた人とオードリーと同じような終わり方をしたことがあるんです。もう随分前で私も若かったんですよ(笑)。自分が「何を望むか、望まないか」は、相手がどんな人であっても、”自分で”決めることですが、相手に対して心を常にオープンにして、話をよく聞くことができればよいですよね。自分がよいと思って選択したことに対して、他人からジャッジされても「気にしないで」と私は伝えたいです。
――ジョーダンさんのバズカットは北米でブームになっているとか。ジェンダーレスなスタイルが人気になっていることをどう感じていますか?
ジョーダン: 髪を丸刈りにしたのは、私にとってすごく開放的でした。何というか、”自由になった”感じ。もし誰かがバズカットをしたいと思っているなら、素晴らしくて素敵なことだから応援します! 世の中には多様なアイデンティティが存在していて、私たちは”自分がなりたい”どんな人にでもなれる。「好きだ」と思うものがあれば、断然やってみるべきです。
※モノガミー:ひとりのパートナーと性的リレーションシップをもつこと。現代の婚姻制度は一夫一婦制。
SNS時代の承認欲求に負けずに、自分らしさを保つためには?
――ジュリアンはインスタグラムで作り上げた自分と本当の自分自身の境界線があやふやになり、それが自分の恋愛や人間関係を壊していきます。誰かも分からないフォロワーからLIKEをもらうために、自分が愛している人々を失ってしまう。SNS時代ならではの葛藤が興味深いです。
ジョーダン: そうですね。ペントハウス(最上階の邸宅)に住んでいて、山ほどお金があったとしても、私たちはみんな”愛や喪失”と向き合わなくてはならないんですよね……。確かに、ジュリアンには恵まれた環境が与える”違い”がありますが、結局のところは、私たちはみんな人間であり、人間ならではの経験をしているのでは? SNS時代でなくとも、こうした人生の挑戦や葛藤は誰もが向き合っているものかな、と思いながら演じていました。
――なるほど。時代が変わっても”生きること”の葛藤は普遍的だ、と。エミリーさんが演じるオードリーは学園でスマホよりも、いつも女性の物語を記した素晴らしい本を読んでいますが、エミリーさんはSNSをどのように捉えていますか?
エミリー: この時代は本当に難しいけれど、みなさん、毎日最低30分から1時間は本を読みましょう!(笑)私は、SNSとできるだけ”健全な距離”を置くようにしていますが、それと同時に、私を支えてくださる方々やファンと交流するようにもしています。人と交流するのが大好きなので、世界中の人たちと交流できるのはSNSのよいところ。ですが、SNS上のコメントの全てをそのまま受け取らないように心がけています。特に、発信者の元の意図や内容が拡散されていくにつれ、”すり変わっていく”ことが多々あるので、そこは注意しています。とはいえ、スマホやSNSの普及により、より多くの人が認知を広げることになったのはよいことでしょうね。特にコロナ禍では外に出かけずに認知を広げることができた。一方、すべてがSNS上で行われるので、ある種の”距離”を感じますね……。
――エミリーさんの言うSNSとの”健全な距離”とはどういう意味ですか?
エミリー: SNSと完全に正しく付き合う方法などない、ということ(笑)。「ゴシップガール」で共演しているケイト先生役のタヴィ・ゲヴィンソンは、VOGUEの「73の質問」の中で、SNSとの上手な付き合い方を聞かれた時に「窓から投げ捨てる」と答えたんです。まさにその通りだと思います!
(※ちなみにタヴィ・ゲヴィンソンは11歳で始めたファッションブログで時代の寵児となり、インフルエンサーから俳優業へ進出した)
それは冗談で、私たちがネットから受けるストレスや非現実的な期待に上手く対処する方法は、自制して利用時間を決めておくこと、かな。SNSは一度見始めるとセロトニンやドーパミンが分泌されて、「もっと続けたい」、「もっと見たい」と思うので大変。そもそも、SNSはそんな人間の仕組みを熟知して設計されていますから。私が大切だと思うのは、「自分が個人的に世界で一番素敵だと思えるもの」に集中すること。安っぽく聞こえるかもしれませんが、SNS上でも自分に正直になることが重要な気がします。
――ジュリアンのインスタをプロデュースするモネは野心家で、SNSでビジネスキャリアを築こうとしていますが、モネを演じるサバンナさん自身はどんなふうにSNSと付き合っているのでしょうか?
サバンナ: 私の場合、まず家に帰ってやることは、スマホをオフにして手放すことなんです。SNSから離れて、数時間はスマホを鳴らさないようにしています。スキンケアやセルフケアが好きなので、キャンドルを灯したお風呂に入ったり、ワインを飲んだり、音楽を聞いたりして、自分を落ち着かせています。私にとって家での過ごすのは自分を再構築する時間。1日に12時間もセットにいることもありますからね。モネのような強いキャラクターは、心理的にも負荷がかかるんです。だからこそ、帰宅したらリラックスして自分を解放して、次の日に備えるようにしています。
パート2ではキャラクターそれぞれの人生に深く切り込んでいく
――最後に、日本の読者にパート2の見どころやメッセージをお願いいたします。
ジョーダン: ジュリアンは学校やSNSの表面上では洗練された姿を装っていますが、彼女の裏面も視聴者だけには見えるようになっています。パート2ではそんな彼女の矛盾するような人間性がとても繊細に描かれているところがオススメポイントです。オリジナルのファンの方たちがこの新しい時代の視点をいれたシーズン1のパート1を快く受け入れてくれているのを、SNS上で頻繁に目にするたびにワクワクして本当に嬉しい。日本には訪れたことがないので、桜の季節にぜひ行ってみたいです。自然や野外が大好きなので、とても美しいと言われる桜をこの目で見ることができれば最高ですね。
サバンナ: パート2では、まずは全キャラクターがより深く掘り下げられていきます。特にマックスとモネについていえば、彼らが何を考えているのか、何をしようとしているのかがもっと見えて来ると思います。モネは人間的に未熟で冷たいキャラクターのように見えますが、そうではないんです。いまのところモネは固い仮面を被っていますが、それを壊すのが私にとっても一番の楽しみ。それから、ゴシップガールらしい”ドラマ”がもっともっとでてきます。ファッションも益々素晴らしくなってレベルアップしています。オリジナル版でも新作でも衣装のデザインとスタイリングを務めたエリック・デイマンが、とにかくすごいんですよ。パート2をぜひ楽しみにしてくださいね。
エミリー: 先程もお話しましたが、母親とオードリーの関係も注目ポイントです。「どちらが親なのか」、「どちらが面倒を見ているのか」、「どちらがイジワルしてるのか」、「どちらが残酷なのか」…母と娘、2人の力関係が崩れてしまっています。パート2で「2人なら何か変えることができのでは?」と私は期待したいのですが……。いや、やっぱりできないかも。何と言っても「ゴシップガール」ですからね!
ポリティカル・コレクトネスに収まらないスリリングでドラマチックな面白さ!
アッパー・イースト・サイドの超セレブ校を舞台に、学園の女王とその取り巻き、キラキラ組に入れないのけ者、密かに問題を抱えている完璧なカップル、ふざけてばかりいるプレイボーイなど、オリジナル版のキャストにきちんとマッピングされたキャラクターが登場する新「ゴシップガール」。生徒の秘密を暴露する匿名の人物、ゴシップガールの正体は第1話から明らかにされ、富裕層(生徒)と中流層(先生)を対立させて格差社会を示唆したり、ジェントリフィケーション(都市の高級化)や家父長制が語られたりなど、社会問題の眼差しを入れたことがオリジナル版とは大きく違う。
また、LGBTQIA+のGかBまでぐらいしかカバーされていなかったオリジナルの描写を大きく上回るリニューアル版は、今後、現実に存在する多様なセクシュアリティをどこまで反映していくのか楽しみ。
そして、ストーリーがポリティカル・コレクネスに収まらず、大金持ちのティーンが振りかざす行き過ぎた特権や気まぐれをアイロニックでドラマチックに見せているのは、やはりオリジナル譲りの面白さ! パート2ではそれぞれのキャラクターがより深く掘り下げられて、既存の社会規範に収まらない人間関係や恋愛スタイルでさらなるスリルが期待できそう。
“You know you love me “, XOXO Gossip Girl
GOSSIP GIRL
待望の新シリーズ、日本初上陸。U-NEXTにて見放題で独占配信中!
全米にて、のべ1億人以上と米国民の3人に1人が視聴し、全世界約200カ国で放送され、社会現象を巻き起こした『ゴシップガール』。世界中のファン待望の新シリーズは、過去シリーズの制作陣が再集結し、オリジナルのDNAを引き継ぎながらも、キャストを刷新、よりスキャンダラスに、よりファッショナブルに、HBO Maxオリジナルとして新しく生まれ変わって戻ってきた。全米では1話配信と同時に55.5万人が視聴、HBO MaxオリジナルのTVシリーズ中、最高視聴者数を記録(初週末)。Twitterトレンド第1位、TikTokで150億回再生など、SNSでも大旋風を巻き起こしている超人気シリーズが日本初上陸!
<ストーリー>
NY、アッパー・イースト・サイド。人気インスタグラマーのジュリアンを中心とした7人グループがコンスタンス・ビラード学園のヒエラルキートップに君臨していた。新学期、奨学金を得て転校してきたゾヤをパーティーに招待し、仲間の困惑を無視して仲間に招き入れようとするジュリアン。そこに突如開設された謎のInstagramアカウント「ゴシップガール」が、彼らの隠された秘密を次々と投稿し始める。エリート学生たちのスキャンダラスな私生活が暴露され、愛憎劇が繰り広げられるー。
<公式サイト>
https://www.video.unext.jp/title_k/gossipgirl
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此花わか
映画ジャーナリスト、セクシュアリティ・ジャーナリスト、米American College of Sexologists International(ACS)認定セックス・エデュケーター。手がけた取材にライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、エディ・レッドメイン、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。セックス・ポジティブな社会を目指してニュースレター「此花わかのセックスと映画の話」を発信中。墨描きとしても活動中。(note/Instagram/Twitter)
Edit Seimu Kawahara