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藤木直人interview 奏劇『Trio〜君の音が聴こえる』で紡ぐさらなる表現の先ーーそして、普遍的な“輝き”の源を語る

役者として十分なキャリアを持つ藤木直人が、ここにきてさらなる挑戦をする。それが声で紡ぐ物語と、生の演奏が織りなす“奏劇”という、新しい朗読劇『Trio~君の音が聴こえる』だ。心地よい温かみと品のある色気を持った藤木の声が、どんな物語を奏でるのか。チャレンジングな作品や声で表現することへの想いと輝くために必要だと感じることなどを聞いた。

扱っているテーマは社会の問題でもあるので、表現するのは難しい

――『Trio~君の音が聴こえる』は、作曲家の岩代太郎さん発案の新たな舞台芸術です。物語をベースに言葉と音楽で構成する“奏劇”というプロジェクトを聞いたとき、どんなイメージを持たれましたか?

「新しい言葉なので最初はイメージが湧かなかったのですが、説明をうかがって“岩代さんらしいな。音楽との融合が面白そうな企画だな”と思いました。岩代さんとはデビュー当時にご一緒させていただいて。“いつか、一緒に何かやれたらいいね”とずっと言ってくださっていたのですが、ついに形になるときがきて、とてもうれしく思っています」

――今回は、孤児院で兄弟のように育った3人の青年の物語。プロットを読んで、どんなことを感じましたか?

「傷を抱えながら成長した3人が、やがて大人になって再会して、お互いの心の中にあるものがぶつかり合っていく。僕らの生い立ち、育った環境なども含め心の奥底を描いている作品ですし、扱っているテーマは社会の問題であったりもするので、すごく表現するのは難しそうだなと感じました」

――藤木さんが演じられるトムは、心理カウンセラーとして日々患者と向き合っていますが、そのサポートをするサムを演じるのが三宅健さん。お2人の接点は?

「デビュー間もない頃、健くんの主演ドラマにゲスト出演したことがあって。V6さんって、95年のデビューでしたよね? 僕も95年にこの世界に入ったので、デビューは同じなんです。とはいえ、当時から健くんはキラキラしていて、すごく活躍もされていたので、僕が一方的に知っているという感じで(笑)。その後、番組で共演させてもらったこともありますが、実は昨年久しぶりにドラマでご一緒したんですよ」

――再会されて、どんな印象を受けましたか?

「人とは違う思考を持っていて、独特の雰囲気のある方ですよね。何日か現場に入って撮影が進んだころに突然、“『海辺のカフカ』、よかったよね。藤木さん、出ていたでしょう?”と言ってきて。普通に考えると、再会した当日にする会話じゃないですか(笑)。それを急に、淡々と話し出すのが不思議で面白いな、と。お会いするのはそのとき以来なので、今回はどんな発言が飛び出すのか楽しみです」

役者として音楽に助けられる場面は多い。音楽の力は本当に大きいから

――今回は朗読劇に収まらない作品になると思いますが、声で表現することや、ご自身の声についてはどのように捉えられていますか?

「声の表現は必然的に情報が絞られるので、やっぱり難しいですよね。ただ、朗読劇とはいえ、今回は動きがついてくるでしょうし、生演奏もありますし。周りのいろんなものに助けてもらいながら、世界を作っていくんだろうなと想像しています。自分の声に関しては、劣等感しかなくて。努力で補える部分はあるけれど、顔とかと一緒で変えられない部分もある。でも、今はみんながみんな、同じものを目指す必要はないなと、自分の声もオリジナルだと考えるようになりました。ただ、それって言い訳になりやすいんですよね。例えば、演技でも“これが自分らしさだ”と言えば楽になれる(笑)。でも、そうじゃなく、表現しなきゃいけないこともあるでしょうし」

――言い訳にせず、個性を受け入れる、そのバランスって難しいですね。

「昔、広末涼子さんが、“演技も点数が出ればいいのに”とおっしゃっていて。それを聞いて、すごいことを考えるなと思ったんです。例えば、スポーツは数字で結果が出ることが多いから、足りない部分、補わなきゃいけない部分が見えやすい。だから課題に対して取り組めるけど、それだけリアルな数字を突きつけられるって、とても過酷じゃないですか。そう考えると……僕らの仕事は数字で測れないことが多い分答えは見えないけれど、数字がないからこそ、ここまでやってこられたのかもしれないとも思いますね」

――藤木さんはミュージシャンとしても活躍されていますが、普段、音楽に触れられていることが、今作で生かされそうな部分はありますか?

「夏のライブでピアノを弾いたので、劇中でピアノを鳴らす場面があるなら少し生かせるかな(笑)。逆に役者として音楽に助けられる場面も、すごく多いと思います。音楽の力って本当に大きくて。シーンの意味合いをグッと増幅してくれることもあれば、違う見え方を与えてくれる場合もある。今回は岩代さんが信頼する演奏家の方を集めていらっしゃるので、どんな風に音楽が作用するのか僕自身もすごく楽しみですし、皆さんにもステキな生演奏を味わっていただけたらと思っています。そして、物語はヘビーな部分もありますが、世界情勢含め、皆さんが何かを考えるきっかけになれば嬉しいですね」

自分が前向きになれる要素を見つけて、楽しんでいたい

――媒体名『GLITTER』にちなんで、“輝き”をテーマにおうかがいしたいのですが、今、目を輝かせるほど夢中になっているものはありますか?

「ここ1年くらいは、料理にハマっていますね。もともと食に興味はあって、昔から料理を題材にしたマンガを読むのも、料理番組を見ることも好きで。きっと“こういう手間を加えると、こんな風になるのか”と、仕組みのようなものを知るのが好きなんだと思います」

――実際に、料理をし始めたきっかけはなんだったのでしょう?

「フレンチシェフの役をいただいて、2021年の夏の終わりぐらいに料理指導を受けたんです。そこから役作りも兼ねて、ちょっと料理を頑張ってみようかなという気持ちになりまして。レシピを探していくうち、料理系のYouTuberさんの動画を見るようになって、その中ですごくいいなと思う方を見つけたんです。その方が発信しているレシピを見ては、“次はこれを作ってみよう”“あれも作ってみたいな”と広がっていきました」

――料理を作る楽しさはどんなところに感じますか?

「やっぱり、家族や知人に作った料理を振る舞ったときに、みんなが“おいしい、おいしい”と言いながら、食べてくれること。それが、すごく新たな感覚で、自分のよろこびにもなっていますね」

――素敵ですね。藤木さんから見て「輝いているな」と感じるのは、どんな人ですか?

「バイタリティーにあふれている方ですかね。いざ、自分が輝いているかと聞かれたら……“輝き方を知っているなら、ぜひ教えてください”という気持ちです(笑)。でも、どうすれば輝けるのか分からないからこそ、貴重なんじゃないかな。すべての人が常に輝いていたら、輝くこと自体に価値がなくなるでしょうしね」

――誰でも輝けるわけではないから、それを美しく感じるんでしょうね。もし、「輝いている=自分にとって良い状態」とするなら、ご自身を輝かせるために必要なものは?

「シンプルですが、“楽しむこと”だと思います。やっぱり、やらされている感覚と、楽しむというのとではまったく違いますし、楽しんでいないと見ている人や周りの人も楽しくならないですし。もちろん、すべての仕事がパーフェクトにできるなんてことはなく、いろいろ思うところはあったりしますけど、それでも自分が前向きになれる要素を見つけて、楽しんでいたいなというのは、いつも心にとどめていることですね」

――与えられるもの、目の前にあるものを、楽しみに変換していくという。

「そうですね。ただ、そんなに大げさなことではなくて。例えば、またご一緒したいと思っていた監督さんや、共演者さんと共にお仕事ができるという楽しみもありますし、いただいた役の中で“こんな表現をしたい”と模索する楽しみもありますし。仕事をする中で、そういった要素を自分で見つけていくことが大切だなと思います」

――たしかに、ひとつ楽しみを見つけられるかどうかで、同じ行動でもまったく気持ちが違いますし。

「もちろん、簡単ではないですけどね。例えば、僕も初めて蜷川幸雄さんの舞台に挑んだときは、もう恐くて、恐くて仕方なかったですから。実際はすごく気を使ってくださる、本当に優しい方なんです。ただ、いつ蜷川さんのスイッチが入るか読めないというのが、逆に恐いんですよ(笑)。そういう意味で緊張感はありましたし、厳しい環境で楽しむのは簡単ではないですが、とてつもなく勉強なるというのは間違いのないこと。わかりやすい楽しさだけではなく、勉強できるという楽しさもありますから」

勇気をもって踏み出すことの大切さは普遍的であってほしい

――藤木さんはいろんな経験をされてきたかと思うのですが、年齢を重ねて気づく“輝き”みたいなものはありますか?

「例えば、青春と言われる時代を思い返すと、自分がキラキラしていたっていうイメージはあまりないんですよね。いろんな面で、青春を謳歌しきれていなかったような気もして。何か新しいことにチャレンジするのって、パワーも勇気もいるじゃないですか。だから、踏み出さなければ何も起こらないし、踏み出さないことで楽をできてしまう部分もある。僕は割と、そういうタイプの人間だったように思います。もちろん、夢中になってギターをやっていましたけど、ただ家で弾くだけという自己満足な部分も多かったんじゃないかな、と。もっともっと興味を持って、外の世界に飛び出していく人もいる。そう思うと、自分の青春時代に後悔がないとは言いきれないです」

――踏み出さなければ何も起こらないという言葉は、読者にも響く気がします。

「いやいや、50のおじさんの言葉なんて響かないですよ(笑)。うちの一番上の子どもは16才ですが、“それは昭和だよ”ってよく言われますから。自分の世代の価値観は、まったく通用しないんだろうなと思っています。もちろん、勇気をもって踏み出すことの大切さだとかは普遍的であってほしいけれど、そう思うこと自体がダサいのかもしれない。例えば、今は頑張って踏み出さなくても、スマホやアプリでいろんな人とつながって、自然と新しいことができる可能性もあるでしょうしね」

――たしかに取り巻く環境や時代によって、価値観は変わっていくものかもしれませんね。

「昔、ある小説を読んだときに、クライマックスでショルダー型の携帯電話を改造した銃が出てきて、“そんなことある!?”って驚いたんですよ。やっぱり時代性というか、時間とともに色あせていくものってあるんですよね。当時の僕が感じた乖離と同じくらい、今の自分とZ世代と呼ばれる人たちはかけ離れているんじゃないかな、とは感じます。そういう時代の変化はありますけど、時間というのは変わらず、残酷にも流れていくもの。だから、子どもや若い世代には悔いのない、いい青春を送ってほしいなと思います」

 

■PROFILE■

藤木直人

1972年7月19日生まれ、千葉県出身。早稲田大学理工学部在学中に映画『花より男子』の花沢類役に抜擢され、その後も『ナースのお仕事』シリーズ、『ホタルノヒカリ』シリーズ、『嘘の戦争』、『なつぞら』など数多くの話題作へ出演。舞台では蜷川幸雄演出の『海辺のカフカ』でワールドツアーを経験し、同じく蜷川最後の演出作となる『尺には尺を』で主演。音楽活動も精力的に行っており、2006年、2007年には2年連続で武道館での単独ライブ、2017年には香港、台湾、上海などのワールドツアーを成功させた。

 

■INFORMATION■

奏劇 vol.2『Trio〜君の音が聴こえる』

原案・作曲:岩代太郎

脚本:土城温美

演出:深作健太

出演:三宅健 大鶴佐助 黒田アーサー サヘル・ローズ 藤木直人 

演奏:三浦一馬(バンドネオン)、西谷牧人(チェロ)、岩代太郎(ピアノ)

<東京公演>2022年12月15日(木)〜24日(土)よみうり大手町ホール

 

 

Photos Takaki Kusumoto@willcreative / Styling Hirohiko Furuta / Hair&Make-up Ohwatari Yachiyo / Words Akiko Miyaura / Edit Kaori Watabe

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