実はオーガズムに気づかない女性もいる!オーガズムにまつわる誤解あれこれ
「頭が真っ白になるほどの絶頂」、「身体中が痙攣するクライマックス」などの感覚を女性のオーガズムだと捉えている人は多いと思う。日本でも「クリストリス、膣、子宮、肛門括約筋の収縮」がオーガズムの定義だとよく言われる。私たちが抱くオーガズム観において、アメリカの性科学者であるエヴァ・カデル博士の研究ではセックスのインターコースからオーガズムを感じる女性は17%しかおらず、43%の女性が「セックスに興味がない」「オーガズムを感じない」「セックスが退屈だ」と考えているという結果が出されている(※1)。
そもそも、オーガズムってどんな感覚なのだろう。今、世界で最も旬のセクソロジスト(性科学者)たちによると、オーガズムは非常に多様で一般化できる感覚はないという。彼らの研究からオーガズムを紐解いてみたい。
オーガズムは生殖器だけで起こるものではない
オーガズムは男性にとって「射精」、女性にとって「クリトリス、膣、子宮や肛門括約筋の収縮」と、”生殖器”で起こるものだとよく言われるが、エミリー・ナゴスキ博士の「Come As You Are」はその考えに異を唱える実験を紹介している。アメリカの心理学者であるアンドレア・ブラッドフォード博士とシンディ・メストン博士が2007年に16人のオーガズム障害を抱える女性に、オーガズムを迎えられると偽った偽薬(プラセボ)を投与した。8週間後、これらの女性のうち、約4割の6人がオーガズムを感じたと報告したのだ。
性機能障害の治療に関する多くの臨床試験で、女性にはプラセボ反応(偽薬を投与された患者は、薬効成分があると思い込むだけで実際に病状がよくなってしまう)が大きいことは知られている。こういった様々な研究結果を通して、ナゴスキ博士は女性のオーガズムが女性器で起こる性的行為だけに限定されるのではなく、性的行為の前後や最中の環境、フィジカルとメンタルの状況といった、”背景”が大きく影響するという結論に至った。(※2)
身体的刺激なしで男女はオーガズムを得られる
性行為自体ではなく、セックスの”背景”がオーガズムに作用する。同様に、直接的な性行為でなくともオーガズムが可能だという研究結果もある。「The Science of Orgasm」の著したアメリカとメキシコの3人のセクソロジスト、ビバリー・ウィップル博士、バリー・コミサルク博士、カルロス・ベイヤー=フローレス博士の研究によると、女性は身体への接触がなくてもイメージだけでオーガズムに達することを発見した。彼らの実験からは、ある下半身麻痺の女性がオーガズムを得ていることを検証できたのだ。(※3)
さらに、アメリカで著名な性科学者のエイヴァ・カデル博士が男性906名、女性535名の計1441名を調査したところ、身体的な刺激なしに、”性的な妄想”からオーガズムに達する男女がいた。男性906名の12.8%、女性535名の17.8%が”脳内オーガズム”を感じたことがあるというのだ。(※1)
6割以上の女性、3割以上の男性がオーガズムをフェイク!?
先述したセクソロジストたちが主張するのは、セックスの”背景”がオーガズムに関係し、生殖器を含めたあらゆる身体のパーツ、そして、身体に触らず性的妄想からも私たちはオーガズムを感じることができる、ということ。けれども、カデル博士の調査によると、女性の66.3%、男性の30.6%がオーガズムをフェイクしていた。
確かに多忙な日々でセックスを早く終わらせたいというのは男女ともにあるだろう。
しかし、男性の2倍以上の女性がオーガズムを演技する理由はなぜなのかーー。博士の同研究では、「オーガズムを感じたことがない」女性は4.3%と、1.3%の男性の約4倍もいた。加えて、「オーガズムを得たことがあるかどうか、分からない」という女性は4.9%で、1.1%の男性の約5倍もいたのだ。
この性差をカデル博士は、女性の場合、”勃起から射精”という分かりやすい身体的変化が起こらないことにより、女性はオーガズムがどんなものか分かっていないことにあるという。だが、実際には男性でもオーガズムと射精が別々に起こる人もいる。事実、博士の研究では、44.8%の男性が射精なしでオーガズムに達していたのだ。カデル博士によると過半数の男性のオーガズムは射精と同時に起こるが、射精とオーガズムが切り離される場合もあるという。(※1)つまり、男性と女性のなかにはオーガズムが何かがはっきりと分かっていない人も少なくないのだ。
男性目線のセックスの”思い込み”から、男も女も脱却すべき
それでは、オーガズムとは一体どんな感覚なのか?
カデル博士とナゴスキ博士はオーガズムを「性的緊張が高まり、一気に解放される感覚」と定義づけている。「The Science of Orgasm」の著者である3人の性科学者も、「身体のさまざまな部分から興奮状態が高まり、絶頂に達して解消期へ向かう」のがオーガズムの基本形だという。そして、このオーガズムは人によってそれぞれであり、その時々により感覚が変わる。
それなのに、なぜ、私たちには「頭が真っ白になるようなクライマックス」「身体中が痙攣・麻痺するような絶頂」という一般的なオーガズム観が刷り込まれているのだろう?
実際に筆者の周囲の人に聞いてみると、「首根っこから何かが放出されてエクスタシーに至る」「さざ波が押し寄せてきて、静かに引く感じ」「身体が一気に軽くなる」「ふう~ッと何かが身体から抜け出た感じ」と様々なオーガズムがある。すべてのオーガズムが”爆発的な射精やセンセーション”ではない。
この私たちの「オーガズムは○○であるべき」と「現実の感覚」における矛盾について、ナゴスキ博士は、私たちが抱いている一般的なセックス観は”男性の射精目線”でメディアや文化が作ってきたものだと説明する。実際には、男性も射精なしにオーガズムを感じることができるのだが、「オーガズム=射精(爆発的な性的エネルギーの放出)」という観念が浸透していることから自分のオーガズムに気づいていない男女もいるのだ。
まとめると、オーガズムは「性的な緊張や喜びが高まり、ぱっと下がる感覚」で、環境、状況、心理や相手などにより、その強度、長さやセンセーションはくるくると変わるものなのである。オーガズムにひとつのカタチはないし、身体的刺激も必須ではない。だからこそ、男性も女性も、そろそろ「オーガズムがセックスのゴール」や「射精しなければセックスは終わらない」という”思い込み”から脱却すべきではないだろうか。それよりも、「一緒にいる時間を楽しくする」「喜びをマックスにする」ことに集中したほうが、よほどセックスを自由に幸せに楽しめると思う。
【参考】
※1…Orgasm by エヴァ・カデル博士 at Loveology University
※2…「Come As You Are: The Surprizing New Science that will transform your sex life」by エミリー・ナゴスキ博士
※3…Exploring the Mind-Body Orgasm – WIRED
此花わか
映画ジャーナリスト、セクシュアリティ・ジャーナリスト、米American College of Sexologists International(ACS)認定セックス・エデュケーター。手がけた取材にライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、エディ・レッドメイン、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。映画の予告編YouTubeチャンネル「Movie Repository」とセックス・ポジティブな社会を目指したニュースレター「Sex Positive Magazine 」を発信中。墨描きとしても活動中。(note/Instagram/Twitter/Sex Positive Magazine Twitter)