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2023.02.15

新連載!【GLITTER SAMURAI】vol.1 28歳でがん宣告。病気がトリガーとなり始めた日本酒ビジネス

「日本から世界へ」をテーマにしたインタビュー連載【GLITTER SAMURAI】がスタート。逆境を乗り越え、志を忘れない“サムライマインド”で、国境を越えたチャレンジをしているピープルをフィーチャーしていきます。

第一回目となる今回、お話を聞いたのは「日本酒業界を世界へ広げ、日本文化の発展へとつなげる」ことを目指した事業を立ち上げた(株)リシュブルー代表取締役の中村優志さん

中村さんは青山学院大学国際政治経済学部への在学中にフランスブルゴーニュ大学へ留学。新卒で大手メガバンクに入社し、28歳でフランス系保険会社へ最年少管理職候補として転職。華麗なるキャリアを歩んでいたものの、2021年7月に精巣がんが発覚。それが人生を見直すきっかけとなり、今の事業を立ち上げることに。

20代で「がん」という病気を宣告されたことで、どのような心境の変化があったのか。

今の事業にかける想い、世界を目指した理由や展望などを伺ってきました。

 

人はいつ死ぬかわからない。やりたいことは、今やったほうがいい

――改めて今の事業を始められた経緯を教えてください。

「もともと自分でビジネスをやることには興味はあったんです。でも具体的なプランがあったわけではなく漠然と考えていただけなので、実践するのはもっと先のことだと思っていたんです。

ですが一昨年、28歳の時に検査で精巣がんと診断され、人生や仕事に対する価値観が一瞬にして変わりました。

がんというものは、宣告されて初めて自分事になります。対岸の火事というか他人事だと思っていた病気が、現実で起こり得るんだ…という感じでしたね。突然、ずっと先だと思っていた“死”というものがリアルに感じられるようになった。しかも自分は20代だったので、『まさか自分が』という思いもありました。

そしてその時から『自分は果たして後悔しない人生を送っているだろうか?本当にやりたいことをやれているのだろうか?』と自問自答するようになり、今までの人生は、全力で生きれていなかったと思ったんです。それがやりたいことで事業を立ち上げようと決意したきっかけです」

――がん宣告された時は、どんな心境でしたか?

「戸惑いはありましたが、自分はもともとメンタルが強いのか、がん宣告されたときもそこまで取り乱さなかったんです。どちらかというと母と妻がショックを受けていましたし、ずっと泣いていました。それを見るほうが辛かったです。幸い、手術と抗がん剤治療でいったん腫瘍をとることには成功しました。ただいつ再発するかもわからない状態で、今も3か月に1回、病院で検査しています。いつどうなるかわからないという状態で、なんとなくサラリーマンを続けているのは、死ぬよりもイヤだと感じたんです」

――中村さんの経歴を拝見すると、誰もがうらやむような華やかなキャリアのように感じますが、それは自分のやりたいこととは違ったということでしょうか。

「そうですね。先ほどもお話しましたがいつか起業したいとは思っていましたし、学生時代からECサイトを立ち上げてみたり、普段から日常生活の中で何をビジネスにできるだろうか、というアンテナは立てる癖はついていました。でもいきなりゼロからは難しいだろうと思い、スキルをつけるためにメガバンクの法人セクションに就職したんです。その後保険会社からお声がけいただき、最年少で管理職につかせていただきました。生活も安定していたし、誰もが知っている大企業に勤めていたので、今思うと正直天狗になっていたところもあった気がします。起業したいというのも、承認欲求や人からの見られ方を気にしていた部分も、少なからずあったように思います」

――先ほど価値観が一瞬にして変わったとおっしゃっていましたが、具体的にどう変わりましたか?

「他人の目を気にしたり、お金や地位、名誉のために頑張ったりすることはもういいやと思うようになりました。あとは人生を中長期で考えなくなりました。もちろん事業としては先のことまで考えなければならない場面はありますが、自分の人生に関しては“今日か明日”のことだけでいい。今日と明日を全力で過ごして満足できたらベストだなと。来週以降のことは考えない。

サラリーマン時代は平日は上司に何かと文句を言われながら(笑)、朝から夜遅くまで働き、週末はYouTube見て、漫画を読んでダラダラ過ごし、夜になると『明日から仕事か。やだなぁ』と憂うというようなルーティンでしかなかった。その頃は失礼ながら、平日のお昼からお酒飲んでる人にはなりたくないと思っていましたが、今は自分が平日のお昼から飲んでます(笑)。別にそれは昼からお酒飲むのがいいとか、仕事をしているかどうかということではなく、『その人にとって豊かになる時間の使い方ができているかどうか』が大切になってくると思うんです」

――せっかく仕事を辞めたのに、事業を興すと益々大変なこともたくさんありますよね。やっぱり仕事は好きだったということですか?

「そうなんでしょうね。でも今までは大きな会社の看板ありきの自分で、ただの歯車でしかなかったのが、自分でビジネスをやるということは、個人で何かを成し遂げることに対する喜びになる。同じ働くでもその違いがあると思います。物事を自分の意志で進められているかどうか、という実感を得たかったんだと思います」

――お金の不安とかなかったですか?

「もちろん、あります。サラリーマン時代は年俸制で安定していたのですが今はこの先どうなるかわからない状態ですから。事業を興して資金調達ができるまでは、不安で毎朝吐きそうになっていたほど。でもありがたいことにスポンサーとなってくれる企業投資家の方もご縁で繋がり、なんとか目処はついたのですが、とはいえ事業が成功するかどうかはこれからなので、今も苦しいと感じることもあります。でも幸い人にはとても恵まれているほうで、いろんな方が助けてくれています。本当にサポートしてくれている方々には感謝しかないですね」

 

日本酒が持つ可能性をもっと広げていきたい

――事業は日本酒のスキンケアプロダクトの開発など、『日本酒を世界へ』というコンセプトですよね。もともと日本酒には興味があったんですか?

「実は、以前はそこまで特別な想いがあったわけじゃないんです。どちらかというとビールやワインのほうが好きでした」

――ではなぜ日本酒を選んだんですか?

「『何がビジネスになるんだろう』ということは、サラリーマン時代もずっとアイデアを考える癖がついていて、そのなかで日本酒のビジネスを考えたことがあって。銀行員時代に長野県へ赴任になった時期があったんですが、長野県の銘柄の日本酒って結構あるんだなと思っていたんです。

その後東京に戻った時、居酒屋に入っても長野県の日本酒を置いているお店があまりなかったんです。ブランディングとしてあえて売る先を限定している、という酒蔵ももちろんあるとは思いますが、これはマーケティングやプロモーションの問題が大きいだろうなと思い、どうやらそこにビジネスチャンスがありそうだな、とは思ったんです。とはいえ具体的に動いたわけではなく、いつかやろうと思っていたくらいでした。

その3〜4年後にがんになり、自分がやりたいビジネスをやろうと考えたときにその時のことを思い出して。そこから色々調べているうちに、日本酒の面白さ、酒蔵さんの想いなどに触れ、まだまだいろんなポテンシャルを秘めている世界だと感じるようになっていきました。そこから日本酒を中心に展開していけるビジネスを考え始めました」

――その第一弾が化粧品ということでしょうか。

「はい。日本酒をターゲットとする自社の事業を表現するツールとして、まずは男女ともに取り入れやすい化粧品から始めました。『蔵寿-coolage-』というブランド名なんですが、日本語では『酒蔵、日本酒業界がもっと元気になってほしい』という意味をこめ、英語では『人は何歳になっても輝ける』という意味を込めての「cool+age」を組み合わせた造語、そしてフランス語でクラージュは勇気など前向きな意味を表す単語であり、これらをかけたトリプルミーニングになっています。化粧品以外でも、ゆくゆくはいろんなサービスを展開していきたいと思っています」

「蔵寿-coolage-」は2023年2月1日よりオンラインで販売スタート

オンラインURLはコチラ

――世界を目指した理由は?

「国内においての日本酒のマーケットは、現段階では右肩下がりの状態。一方で海外では伸びてきているんです。ただ、資本がある大きな酒蔵の商品しか出回っていないので、これから海外進出を考えている酒蔵と手を組んで、その仲介役になれたらと思っています。せっかく素晴らしい日本酒がたくさんあるのに、日本にとどまっているのはもったいないなと。化粧品だけでなく今後は日本酒が世界にもっと進出していけるように、ワインと同じくいろんな銘柄が海外に展開できたら自分としてもうれしいです。

あとは小さい頃に両親の仕事の都合で少しの間ブラジルに住んでいたり、学生時代にフランスやオーストラリアに留学していたのもあって、もともと自分が海外志向だったのもあります」

――スキンケアのプロダクトでこだわったところは?

「開発するにあたって、日本酒由来の化粧品の口コミを3カ月ほどかけてたくさん見ていたところ、『ニオイが気になる』という意見が多かったんです。せっかく効果・効能は感じているのに、日本酒独特の香りに抵抗を感じてしまうことで、リピート率が少ないように感じました。

なので、あえて日本酒そのものは原料として使わず、ツヤのある肌へと導くアミノ酸や、乾燥防止に効果があるといわれるフェルラ酸など、日本酒と同じ成分のものを使うことにしました。

そのため日本酒がもたらす肌への効果はそのままに、独特な香りは気にならないというプロダクトが完成しました。香りはほのかにグリーンティーの香りを感じられるように仕上げています」

――レシピだけ持ってきたという感じですね。

「そうですね。まずは基礎化粧品として化粧水と乳液をリリースしました。はじめはオンラインのみで、その後国内の百貨店、そして3月半ば頃からカンボジアにあるアジア最大級のイオンモールに出店が決まりました」

――いきなりアジア進出はすごいですね!

「ありがたいことに先方からお声がけいただいて。日本酒というキーワードもそうですが、パッケージもジャポニズムをイメージして、“日本”というものを前面に出したので、海外の方が見た時に魅力的に感じていただけるのだと思います。

パッケージは縁起のよい水引きを思わせる赤いアクセントに。化粧箱に配された漢字のロゴには、おちょこの底にある二重丸とお米粒を取り入れています。プレゼントや結婚式の引き出物などにも活用してもらえたらと思っています。

実はこのパッケージは、デザイナーである妻が手がけてくれました。男女兼用でも使えるので、国やジェンダーの壁なく、いろんな方に使っていただけたらと思います」

 

自分を輝かせてくれているのは、サポートしてくれるまわりの人達

――起業して大変だったことはありますか?

「たくさんあるので難しいところですが、まわりの方々に助けていただいてここまできているので、結果が出せるかどうか、というプレッシャーは常にあります。売り上げ以上に、僕のアイデア自体が世に認められるかどうか、と不安になることも。そこが一番、胃を痛めるところです」

――ご自身では、まわりの方がサポートしてくれる理由はなんだと思いますか?

「パーフェクトな人間じゃないからじゃないでしょうか。情熱と推進力だけはあるつもりですが、そのほかの能力が高いわけじゃないと自分では思っていて。優秀な方がとても多いので、自分の足りない部分をまわりの人に助けてもらっていると思っています。

あと、自分は運も味方してくれていると思うんですよね。正直なところ、銀行で働いていたので融資も簡単だろうと高を括っていたところもあって。でも日本酒業界にいたわけでも化粧品業界にいたわけでもない僕に融資をしてくれる銀行はなく、すべて断られてしまいました。融資を断られた日、意気消沈してその足でカフェに入ったのですが、絶望的な気分のまま起業家と投資家をマッチングさせるプラットフォームに登録したんです。それを見て投資家さんが連絡をくれたんです。しかもちょうどその投資家さんはまた別の日本酒関係の事業を始めたばかりのタイミングで、『メンズの化粧品が伸びているらしい』と話していたらしく、そのサイトを僕が登録したタイミングで開いたらしいんです。しかも2年ぶりに! こんな奇跡的なことあるんだなぁ、と感動しました」

――銀行に断られたことさえも必然だったのかもしれませんね。

「そう思います。昨年、都立高校に声をかけていただいて、講演会をしたんです。がんを宣告されたことでの気づきなどをお話したのですが、その時『がんもキャリアのひとつ』と思えました。もし病気をしていなかったら、しばらくはサラリーマンとしてがむしゃらに働いて、ある程度お金を稼いだら車を買って、家を買って…という子供のころから当たり前に歩んでいくと思っていた流れに沿った人生だったんじゃないかと思います。もちろん物欲がまったくないわけじゃないですが、優先順位が変わりました。『今を生きる』ということが、心からわかったような感じがします」

――すべてに意味があったと。2月1日にスキンケア商品が発売されたばかりですが、今後の展開が楽しみですね!

「はい。日本酒業界発展の架け橋となることを目標に掲げ、創業しました。日本の文化が改めて世の中に広がる機会を創り出していけたらと思っています。スキンケアも化粧水、乳液以外にも展開していきたい。ぜひ一度、試してみてください!」

 

 

Photos Takayuki Fujimoto/Text Sonomi Takeo

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