窪塚洋介interview 主演映画『Sin Clock』で抱いた表現者としての面白さと“グリッター”な生き様を語る
90年代から第一線に立ち続け、今なおカリスマ的な存在感を放つ窪塚洋介。マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙-サイレンス-』でハリウッドデビューを果たすなど、俳優としての活躍の場を広げる一方で、アーティストとしても活動し、そのスタイルは自由さを増している。そして、意外にも18年ぶりに邦画長編映画単独主演を務めたのが、公開中の『Sin Clock』だ。今作が商業映画デビューとなる新鋭・牧賢治監督によるオリジナル脚本作品で、どん底から一攫千金を懸けて這い上がる男・高木シンジを演じる。同い年だという監督の情熱と共鳴して完成した今作で得たもの、そして、輝き続ける秘訣を語ってもらった。
直感でその役が面白いかどうかを純粋に捉えようとしている。
――『Sin Clock』の脚本を読んだ時の印象はいかがでしたか?
「まず、牧監督のことは何も知らない状態で、脚本を読ませていただいて。脚本とだけ向き合った段階で、すごく面白かったんです。大どんでん返しのストーリーと、シンクロニシティをテーマにしているところに惹かれました。リアリティを持ってこの物語を描けたら、今までになかった作品ができるなと思いました」
――18年ぶりの邦画長編映画単独主演ということについて、思うところはありますか?
「撮っている最中は、18年ぶりみたいな意識は全然ありませんでした。宣伝する時に、売り文句として強めのパンチラインになるから出てきた言葉なんじゃないかな(笑)。作品を選ぶ基準として、別に主演じゃなきゃやらないとか、脇役だからやる、みたいな感覚はなくて。単純に、自分に振られている役が面白いかどうかが一番大事なので、その結果18年ぶりだっただけです。20代前半の頃は、真面目な役をやったら次は悪い役がやりたいとか、逆のほうに振りたいって考えもありましたけど、今となっては、直感でその役が面白いかどうかを純粋に捉えようとしている気がします。特に今回は、牧監督が同い年で、しかもヒップホップが好きでとか、知れば知るほど面白いなと思って。共通項にヒップホップがあることで、昔からのツレみたいな感じで共有できることがたくさんありました」
――実際に、できあがった作品を観ての感想をお聞かせください。
「小説を映像化することによって世界が小さくなったと感じることもあるけど、この作品に関しては、脚本の印象より面白くなったと思います。手前味噌ですが、より具体的に体現できたんじゃないかなと。特に、トリック的な伏線の回収とかは映像で見るほうがわかりやすいし、テンポが出てきて気持ちがいいんです。前半は、少しどよんとした空気が続きますが、いざ走り始めると勢いが出てくるので、そのための振りだと思っていただければ。シンジも、鬱屈としているところから……犯罪ではあるけれど、それをきっかけに生きる喜びや生き甲斐みたいなものを見つけて進み始め、同時に映画も疾走感が出てくるのが見どころかなと思います。そして、深遠なメッセージが込められているなと思ったのは、やっぱり何かに取り組むためのマインドセットが一番大事なんだと気づかされるところ。何事も、それをやろうと決めた時に一発逆転の種が撒かれる。まあ、願わくはシンジみたいに犯罪じゃないほうがいいと思うけど(笑)。そういうことなんだなと改めて感じました」
健康でいることが一番の土台。それは好きなことをやるのと同じくらい、キラキラするために大事な要素。
――媒体名の『GLITTER』にちなんでの質問になります。窪塚さんが“輝いている”と思う人はどんな人ですか?
「ずっと好きなことをやり続けている人は、歳を取ってもキラキラしているなと思います。一緒に仕事をしたマーティン・スコセッシ監督しかり、蜷川幸雄さんしかり。自分の好きなことを楽しんでやっていること、ちゃんと自分の道を歩んでいることが大前提で。あとは、最近よく『腸活、腸活』って言っているんですけど、健康でいることが一番土台になるとは感じています。それは好きなことをやるのと同じくらい大事で、キラキラするための要素になりますよね」
――ご自身にとっても、好きなことをやるというのは指針になっていることですか?
「そうですね。じゃないともったいないですよね。おそらく1回きりの人生じゃないですか。ボーナスステージか、もしくは輪廻転生とかあるのかもしれないけれど、とりあえず1回きりの人生だと思って生きていて間違いはないから。だって、死期が近づいた人、終活してる人たちにインタビューしたら、いつの時代も『やりたいこと、好きなことをもっとをやっておけば良かった』っていうのが、100%1位になっているじゃないですか。そうやって先人が言い続けてくれているんだから、そうしたほうがいいに決まってますよ」
やるべきことを粛々と丁寧にやっていく。そのおかげで一瞬一瞬がすごく“グリッター”な時間になっている。
――では、“輝きゴト=今ハマっていること”や、これがあれば輝けるというものは何かありますか?
「今は、腸活とゴルフ。どちらも去年はかなり真剣に取り組んで、“輝きゴト”になりました。ゴルフは去年2月に始めて、一気にハマっちゃって。多い時は月に13回くらい行っていました。一生やらないと思っていたし、周りからも『おまえは絶対やらないと思ってた』って言われたけど(笑)。自分でもここまでハマると思わなかったです。あとは、今まさに海外作品のドラマを撮っていて。その現場が本当に面白くて、すごくやりがいがある。大変なんだけど、生きる喜びみたいなものを感じられています。撮影が夜中の2時くらいまで及んだり、寒くて狭いところでトリッキーな撮影をしたりしていて、割とストレスフルな環境ではあるんですが。共演者の若い俳優さんがちょっとしんどそうだったんだけど、その子に話したのが、『間違いなく、10年経って思い出した時に、あの現場最高だったなと思う現場の1つだから、絶対楽しんでおいたほうがいいよ』って。『絶対お前のためになるから信じろ、つらい時こそ笑え』って言ったくらい、本当にいい現場なんです。これも発表されるのを楽しみにしていてほしいです」
――それはむしろ、大変だったり壁があるほうが楽しいという想いもあるのでしょうか?
「そういう言い方もできるかもしれないです。本当に大変でつらい時に笑える人はかっこいいし、自分のマインド次第でピンチをチャンスに変えることができると思うので。別に、誰かに見せたくてやっているわけじゃなくて、自分がそうしたいからやるってだけでも、結果的にかっこいいなと思わせる要素にもなりますし。自分も気持ちいいうえに、そういうお得なおまけまで付いてくるなんてね」
――海外での活動もどんどん挑戦していきたいというモチベーションに?
「はい。ここ最近は海外ブランドのモデル、海外出資の映画やドラマとか、そっち方面の仕事のほうが多くなってきました。国内はまだまだ旧体制で進んでいる部分が多くて……その間に海外の門が開いて、向こうから何のバイアスもかかっていない人たちが『活躍してくれ、才能を出してくれ』っていう感じで橋をかけてくれる状況になっていると感じています。だから、俺はやるべきことを粛々と丁寧にやっていくだけです。そのおかげで1日1日、一瞬一瞬がすごく“グリッター”な時間になっているかな(笑)。とは言え、国内でも今回の『Sin Clock』みたいな作品に出会えることがあるので、それはそれで真摯に向き合うのみです」
自分の本音を自分が誰よりも聞いて、行動していく。結果はあまり求めなくていい。
――そんな中で、窪塚さんが輝き続ける秘訣を教えてください。
「さっきも言った健康や、ブレずに自分の道を行くことです。自分の本音を自分が誰よりも聞いて、行動していくこと。結果はあんまり求めなくていいと思うんです。もう、その過程が結果みたいなものだから。自分がしたくてしているんだから、それが評価されたらラッキー、何か見返りがあれば得したな、くらいに思っておけばいい。何より、今のこの瞬間が最高で、このために生きていると思えることがやれていればいいんじゃないかなと思います」
――現在43歳ということで、40代に入って、感覚や価値観に何か変化は感じますか?
「単純に目も悪くなって、白髪も増えるし、酒も弱くなってきて、体力が落ちてくる……。フィジカル的なダウンに否が応でも変化を感じます。『昔はあんなに飲めていたのに、もう酔っぱらってるなあ』とか(笑)。だけど、それに抗うというよりは、楽しむ方向に持って行きたい。むしろ、弱みを見せて笑ってもらって、強みにするみたいなふうにできれば、どんどん道が開けていくと思います。歩けば歩くほど道が広くなっていって、どんどん自由になって、『今がいちばん楽しい』って思って死にたい。そういうマインドで歩いていければいいなと思います。仕事面では、海外の作品を精力的にやっていきたいです。日本は超ガラパゴスなので、どうしても島国の村社会で完結しちゃうところがあって。もちろんいいところもあるし、大好きな国なんですけど。だからこそ、橋渡しとして文化交流をしたり、日本にあるいいものを海外に伝えることができる役者を目指したいなと思います。芝居に関しての少し細かいことで言うと、目の色や輝きだったり、纏っている空気感をコントロールできるようになりたい。もちろん、今までもそういうつもりではやっているし、結果そう見えるようなところはあっただろうけど。自分とはかけ離れた生き方をしてる人たちが持っている、生来の空気感を、演技で到達しえないものでも、到達できるんじゃなかろうかっていうところにトライしていきたいと思ってます」
生気がないところから振り幅を作っていくアプローチがすごく楽しかった。
――まさに本作でもそういう表現をされていらっしゃいましたね。
「生気がないところから振り幅を作っていくアプローチがすごく楽しかったので、これをもっとコントロールできるようになったら面白いだろうなと思ったんです。昔、俳優を始めた頃に親父に言われたことをふと思い出して。悪い奴の役をやった時に、『お前の目に宿っているその光はどうなんだ、そこまで表現できているのか?』って言われたことがずっと引っかかっていたんです。たしかに、演技は嘘をつく仕事だけど、嘘が露骨に見えるのは嫌だよなあと思っていたところに、今回しっかりアプローチできた手応えがありました。これから、そこをもっと追求していきたいです」
■PROFILE■
窪塚洋介
1979年5月7日生まれ、神奈川県横須賀市出身。「金田一少年の事件簿」(95/NTV)で俳優デビュー。その後「池袋ウエストゲートパーク」(00/TBS)の怪演で注目される。『GO』(01/行定勲監督)で第25回日本アカデミー賞新人賞と史上最年少での最優秀主演男優賞を受賞。『Silence -沈黙-』(17/マーティン・スコセッシ監督)では、物語の鍵となる“キチジロー”を演じ、ハリウッドデビューを果たす。『最初の晩餐』(19/常盤司郎監督)では、高崎映画祭、日本映画批評家大賞で最優秀助演男優賞を受賞し、高く評価された。映画を中心に国内外問わず多数の話題作に出演している。舞台でも活躍するほか、音楽活動、モデル、執筆と多彩な才能を発揮。自身のYouTube番組やコスメなどのプロデュースにも注力している。
■INFORMATION■
©2022 映画「Sin Clock』製作委員会
『Sin Clock』
最低な人生は、たった一夜で最高の人生に変えられるのか? 社会からも家族からも見放されたタクシードライバー、高木。奇妙な偶然が呼び寄せた、巨額の黒いカネを手にするチャンス。鍵を握るのは一枚の絵画。高木はたった一夜での人生逆転を賭け、同僚らと絵画強奪計画を決行。だが、運命の夜はさらなる偶然の連鎖に翻弄され、男たちの思惑をはるかに超えた結末へと走り出していく――。
監督・脚本:牧賢治
出演:窪塚洋介、坂口涼太郎、葵 揚、橋本マナミ、田丸麻紀、Jin Dogg、長田庄平、般若、藤井誠士、風太郎、螢雪次朗
配給:アスミック・エース
公式Twitter:@SinClock_movie
公式Instagram:@sinclock_movie
新宿ピカデリーほか、全国公開中!
Photos Ken Ogawa / Hair&Make-up Shuji Sato@botanica / Words Hiromi Yamanishi / Edit Kaori Watabe