さとうほなみinterview 『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』に関われたことが大きな財産
自由の国に渡るため性転換手術を受けるも、失敗して股間に“アングリーインチ”が残ってしまったロックシンガー・ヘドウィグが、愛を求めて歌い旅するミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。1998年のオフ・ブロードウェイでの初演以来、映画や日本版公演で多くの観客を魅了し続けるこの作品が、今年2月から関ジャニ∞・丸山隆平主演で上演される。ヘドウィグの恋人、そしてバンドメンバーとして彼女を支えるイツハクを演じるのが、さとうほなみだ。バンド「ゲスの極み乙女。」のドラマー、ほな・いこかとしても活躍する彼女は、『ヘドウィグ』の世界にどう挑むのかーー作品への想いを聞いた。
ヘドウィグが作る曲をイツハクとして歌える、そんな喜びや心の震えも感じられる
ーーさとうさんが感じる『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の最大の魅力は?
「ヘドウィグの生き様や、武装をして覆い隠している弱さや、自分の“カタワレ=愛”を探す中でつらい目にあってきたこと、そしてヘドウィグやイツハクの中で渦巻いている感情とか、どこをとっても行き過ぎているのが、この作品の特長だと思っていて。でもだからこそ、誰しもが共感する部分があるんですよね。痛みを感じるけど笑えるところもあったりして、いろんな顔を持つ作品。痛いけど愛らしいとか、つらいけど面白いとか、そういう多面性があるからこそ、いろんな人がいろいろな受け取り方をできる、彩り豊かな作品だと思います」
ーー多面性を持つこの作品で、丸山さんとさとうさんだからこそ、今回の『ヘドウィグ』でこういう部分を特に伝えられると感じることは?
「丸山さんは、飾らない自由な方だなっていう印象です。ヘドウィグを演じているんだけど、ヘドウィグを通して丸山さんが応えてくれるという感じがしていて。アドリブも含めて、すごく自由に応えてくれますし、自分のやりたいことも自由に表現できる方です。でも、尊敬できてついていきたいと思わせるところや、人間としての面白さや、ふとした瞬間に見える脆さとか、ヘドウィグと通じるところがあって、本当にヘドウィグが目の前にいるって感じます。私も、イツハクのヘドウィグに対する純粋な気持ちと、その周りに渦巻く複雑な気持ちをふまえた上で、自由に演じたいです。そうしたら、すごく自由な『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』にできるんじゃないかなって思っています」
ーーイツハクを通じて、さとうさん自身の内面や想いが滲み出ている実感はありますか?
「はい。イツハクをしっかり演じつつも、そこはなくさないようにしたいです。私がイツハクを演じる意味は、必ずそこになければいけないと思うので。でもそのためには、心から楽しむことが大切だと思っています。何よりもまず、楽しんで演じたいですね」
ーー自由に楽しんで演じることで、おふたりらしい『ヘドウィグ』を表現できるということですね。
「『ヘドウィグ』の物語のベースはライブツアーで、その中でヘドウィグやイツハクが抱えているものが見えてくるんですけど、根本には音楽があるので、それを楽しむことが一番大事かなと思います。とにかく、音楽がかっこいいんですよ! 曲もバンドアレンジもすごくかっこよくて、体の中から震えます。ヘドウィグが作る曲をイツハクとして歌える、そんな喜びや心の震えも感じられるから、演じていて本当に幸せですね」
ーーさとうさんが考えるイツハクの人間としての面白さは?
「イツハクはきっと、ヘドウィグと出会ったときに大きな衝撃を受けて。すごく、ビビッときたんじゃないかなと思っているんです。それまでイツハクは口パクでしかステージに立たせてもらえなかったりしていた中で、ヘドウィグは、自由に自分のやりたい音楽を表現している、そんなかっこいい生き様を目の前にして……その感情を何という名前で呼ぶのかわからないんですけど、きっとたった一言、『好き』ですよね。純粋にヘドウィグのことが好きで、パスポートを偽造してまでヘドウィグについて行くという覚悟もあって。でも、稽古の中でイツハクとして生きてヘドウィグに対面していると、ただ純粋に『好き』っていう感情だけじゃやっていられない!っていう想いも生まれてきたんです。好きという想いが根本にありつつ、ヘドウィグに対する気持ちがふわっと離れそうになるときだってあるし、絶対になくならないと思えるときもある……その周りに渦巻いているいろいろな感情によってイツハクの気持ちが変わってくることがだんだんわかってきて、『なんだこれ、すごく面白い!』って思ってます」
ーーさとうさんが表現者として培ってきたどんな部分を活かして、どんなイツハクにしたいですか?
「私は何もたいそうなものは培ってきてませんので(笑)。でも、イツハクの過去や今まで考えてきたこと、それにヘドウィグに対する気持ちを、背景として伝えられたらいいなと思っています。こういう人生を歩んできたからこうなんだってわかるというか、物語の前と後ろが見えるようにしたくて。舞台ではヘドウィグとの会話自体は少ないし、触れることもあまりないんですけど、ヘドウィグに対するイツハクの思いや、ヘドウィグから受け取るものを、ふたりの空気感の中で伝えていきたいですね」
輝くために欠かせないことはお酒を飲みながら、韓国ドラマを見ること
ーーミュージシャンとしての経験やバンドのドラマーとしてのスタンスは、今回の舞台にどう活かされていますか?
「……私、背後をとられるのがすごく苦手なんですよ(笑)」
ーーライブのステージではいつも一番後ろですもんね。何時間も前に立ち続けるのは初めてですか?
「そうなんです(笑)。たまにちょっと前に出てくることはあっても、基本はずっと一番後ろでドラムを叩いてきたので、いつも前にメンバーがいて、後ろには人がいないのが普通だったんですよね。車やバスに乗っても、安心するから、絶対に一番後ろの席に座りますし。今回、ずっとバンドメンバーの前に立つので、ちょっと不安です。これからバンドメンバーを含めた稽古が始まるんですけど、そわそわしないようにがんばります(笑)」
ーー『ヘドウィグ』を経験したことは、さとうさんの今後の活動にどんな影響を与えると思いますか?
「やっぱり、作品がすごく、素晴らしいんですよ。今回、コーラスで関わらせていただいたり、丸山さんと一緒にお芝居ができて、その関係性を大切にして演じることで、得られることはたくさんあると思っています。でもとにかく作品が本当にいいので、この『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』に関われたということ自体が、私のすごく大きな財産になると思っています」
ーー最後に、さとうさんがさまざまな活動で、輝くために欠かせないものは何ですか?
「お酒を飲みながら、韓国ドラマを見ることです。お酒を飲んで韓国ドラマを見ると、癒されてぐっすり眠れます。『ああ、なんてすごいんだろう』って思いながら、いつもベッドに入っています(笑)」
さとうほなみ
PROFILE
1989年8月22日生まれ 東京都出身。映画・ドラマ・舞台と幅広いジャンルの作品に出演し、現在大注目されている女優。近年の主な出演作に【舞台】『カノ ン』(21)、『レネゲイス』『虎は狐の井の中に(仮)』(19)、【映画】『愛なのに』(22)、『彼女』(21)、『窮鼠はチーズの夢 を見る』(20)、【ドラマ】『誰かが、見ている』(Amazon Prime Video・20)、『ルパンの娘』(19・CX)、『まんぷく』(19・NHK)など。バンド・ゲスの極み乙女。のドラマーほな・いこかとしても活躍。
■INFORMATION■
ブロードウェイミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
2022年2月3日(木)~13日(日)東京都 EX THEATER ROPPONGI
2022年2月16日(水)~19日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
2022年2月23日(水・祝)福岡県 Zepp Fukuoka
2022年2月25日(金)~27日(日)愛知県 Zepp Nagoya
2022年3月2日(水)北海道 Zepp Sapporo
2022年3月4日(金)~6日(日)東京都 Zepp DiverCity
Words Miki Kawabe / Edit Kaori Watabe