Awich interview HIP HOP界で唯一無二の女王として輝く秘訣のひとつは“エロスへの探求心”
日本最強のフィメールラッパー、Awichが、メジャーレーベルに活動の場を移してから初のアルバム『Queendom』をリリースする。19歳での渡米、アメリカ人男性との結婚・出産、夫との死別、音楽活動の本格再開など、波乱の中で探求を重ね、強くしなやかに表現を続けるAwich。彼女が強い輝きを放つ理由や活動の言動力、そして自身にとって大きなテーマである独自のエロス観についても話を訊いた。
『Queendom』は私がHIPHOP界の頂点に立つという覚悟
――前作『孔雀』は、これまでの人生で得たものや理解を形にして伝えるアルバムだったと話していらっしゃいましたが、今回の『Queendom』のテーマは何でしょうか?
「『Queendom』は、私の覚悟です。これまでのストーリーやここに至るまでの経緯を表した曲もあるし、それは今までも伝えてきたことなんですけど、今回は今の明確な決意が込められています。それを『Queendom』というアルバム名もそうですし、“Queendom”というタイトル曲にも、全面的にわかりやすく詰め込みました」
――覚悟とは具体的に、何に対するどんな決意なのか気になります。
「私が一番になるということ。つまり、日本のHIP HOPの世界でクイーンになるという覚悟です。メジャーレーベルに移ってからは特に、マスなオーディエンスに聴いてもらいたいという意識で楽曲を作ってきたんですけど、今回からは、『私が』ではなく、日本のHIP HOPをもっと多くの人に聴いてもらわなければならない、という強い気持ちに変わりました。HIP HOP自体を日本のオーバーグラウンドに持っていく、そのために、私が頂点に立って引っ張っていくという決意です」
――自分の音楽を多くの人に聴いてもらうというところから、トップに立ち引っ張っていくという決意に変わると、音楽の作り方にはどんな変化がありましたか。
「より多くの人に聴いてもらうという思い自体は変わらないんです。でも今回は、このラップの表現がこんなにもカッコいいんだとか、こういう音に感情を揺さぶられるんだということを、ジャンルのリスナーを超えて感じてもらうための音作りを意識しましたね。それを私と私のプロデューサーは『優しさ』や『思いやり』と呼んでいて。自分たちがカッコいいと思うものや、自分たちが深く理解できることももちろん大事なんですけど、多くの人をイメージして、『これって理解してもらえるかな?』『聞きやすいかな?』とか、ひとつひとつのことを考える、その優しさを詰め込むことで絶対に伝わるはずっていう思いで作りました」
聴いた人が自分を理解するのに役立つのなら、葛藤も乗り越えられる
――優しさを持って音楽を伝えることと、Awichさんとして表現したいものが、ぶつかってしまうことがあるのではないかと思いますが……。
「もちろん、その葛藤は随時あります。でも、そこに向き合うことがいい作品作りにつながるという発見もありました。そこから逃げないでよかったって感じましたね。それに、自分の気持ちとか感情とか今までの人生で起きたことって、向き合いたくないものもあるじゃないですか。そことしっかり向き合って、自分の不安や恐怖を言葉にする作業に時間を割くことが大事だっていう発見をできたことも大きな恵みでした。それを私は仕事としてできていて、みんなの前でパフォーマンスできることは本当に恵まれていると感じるし、楽しいです。その反響がまた、超、嬉しくて。私の曲を聴いて、こういう悩みを持っているけど前に進む勇気が出たとか、そう言ってもらえることが私にとってのご褒美なんです。音楽を作る上での葛藤はあっても、いつも、ここを乗り越えれば絶対にご褒美があるから!って思ってます」
――Awichさんが表現をする究極の目的というのは、やっぱりそういった聴いた人の喜びなんでしょうか?
「そうですね。私が大事にしていることって、学びと表現と貢献なんです。いつも、『学ぶ』ということを土台にしているんですよ。どのシチュエーションであっても学びたいんです。決められたソーティングに従って、これはいる/いらないって情報を選ぶんじゃなくて、まずは全部受け入れて、学びたい。私は、学んだことを表現してるんですよ。表現することで自分としても整理ができるし、聴いてくれた人が、自分のことを理解するのに役立つということを、長い表現のキャリアの中で発見したんです。だから、人に貢献することが最終的なゴールだと思います。人が表現する場を作ってあげたいという気持ちもあります。だから、『もっと言いたいことを言っていいんだよ』というメッセージもいつも曲に込めてます」
「口に出して」「いって」……気持ちを伝える大切さとセックスの戯れをダブルミーニングで表現
――今、発売中の『GLITTER vol.3』のテーマである「セクシュアルとリレーションシップ」についてもお聞きしたいんですが、このアルバムにも入っている“口に出して”という曲は、溜めている思いを口に出していいんだというメッセージもありつつ、セクシーな曲ですよね。
「そうですね。ダブルミーニングとか、いろんな仕掛けがある曲です」
――Awichさんは、女性がセクシャルな欲望に正直でいることが女性の自律につながることを表現してきて、同時に、それに反対する勢力の存在も感じてきたかと思います。そういう世の中の風潮も含めて、“口に出して”を作った思いを教えていただきたいです。
「私自身、セクシャルなことにずっと興味があるんです。エロスというテーマが私の中でひとつの軸になっていて、今までもこれからも、キャリアや人生を通していろんな形でエロスについて表現していきたいと思っていて。かといって押し付ける気もないんです。絶対、全員セックスしたほうがいいっていうつもりもないし、みんなが恥じらいもなくエロスについて話せるようになったほうがいいとも思ってない。恥ずかしいという気持ちも、大事な気持ちだと思うし。いろんな人が、それぞれの形でエロスを自分の中に抱くという選択ができればいいなって思うんです。“口に出して”という曲を作ったのは、単純に、自分の気持ちを口に出す大事さを伝えたいというのがひとつ。あとは、セックスの戯れの楽しさです。この曲では、具体的にはオーラルセックスの話をしているんですけど、セックスにはいろんな楽しみ方があっていいし、それをやりたいって思ってもいいじゃんっていう、めっちゃ単純な曲です(笑)」
――なるほど! ダブルミーニングでいろいろな意味に受け取れて、すごくおしゃれですね。
「単純だけど、表現の中に仕掛けがいっぱいあって。それに気付けば気付くほど、エロスの罠にはまっていくんです(笑)。デイリーポエムを書いていたときに、『口に出して』ってコンセプトを思いついたんですけど、口に出して、言って、寂しかったとか、愛してるとか、口に出して……って言葉を重ねていくうちに、全部ダブルミーニングじゃん!って気付いて。これめっちゃ、世紀の大発見!って、できた曲です(笑)。きわどい表現も多いけど、私としては、どうとでも弁解できるんですよ。『せいしをかけて愛されるのは罪?』なんて、いやらしいこと言うなって言われても、『生死をかけて愛される』のどこがいやらしいんですか?って。卑猥っていう人がいたら、『私はそういうつもりで言ってませんから。あなたの心が卑猥なんですよ』って言える(笑)。そこがめっちゃ強くて、超、大好きな曲です」
自分で決めた道で悩めるなんて幸せ。迷ったら感謝の気持ちで前に進んできた
――Awichさんにとってエロスは、表現においてもプライベートにおいても自分が輝くために必要な要素のひとつだと思いますか?
「そうだと思います。エロスについてはいろんな議論がありますけど、人間は、命が生まれる過程を美しいものとも、卑猥なものとも、いろんなとらえ方をするんですよ。ほとんどの動物にとっては生殖活動でしかないものに、人間はいろんな紐づけをするんですよね。なんで私たちは、このエロスという存在からこんなに強い感情やエネルギーを感じるんだろうというミステリーに、私はとっても惹かれていて。昔はそれをタブーだと思っていたから、興味を持つ自分が変なのかな?って思っていました。だけど、やっぱりその考えをぬぐえなくて、気付いたら、人がセクシャルなものに惹かれる理由を深く考えていて。私自身は、その自問自答の中で、曲を書くということが武器になったんですよね。表現していく中で、エロスってきっとみんなの心の深いところに存在していて、いろんな人のコンプレックスや自信につながっているんだという仮説が生まれて、それにずっと挑戦している感じです。それも学びのひとつで、エロスについての研究結果を少しずつ発表している感覚。だから、パフォーマンスや制作でも、日々の生活の中でも、エロスと向き合うことが私に輝くための力を与えてくれています」
――19歳でビジネスを学ぶために渡米したり、パートナーを亡くされた後、日本に戻って事業を始めたりと、Awichさんの人生は決断の連続だったと思うんですが、進む道を決めるとき、Awichさんが大事にしてきたことは何でしょう?
「私がいつも大事にしているのは、感謝です。悩んだときは、これは私がやりたくてやっていることで、みんなにも求められてる、それをできていることに感謝するんです。感謝の感情を持てば、すんなり前に進めます。仕事が嫌だって思う人もいるかもしれないけど、やりたくないならやらなければいいと思います。仕事に行きたくないなら、行かなければいい。行かなければご飯が食べられないなら、食べなければいい。食べないと死んでしまうと言うのなら、死ねばいい。そんなことできない!って思うなら、死にたくない、生きたいっていうことですよね。生きたいからご飯を食べる、そのために仕事に行くって、自分が全部、選んだことだってわかれば、気持ちが変わると思います。私は“どれにしようかな”でも、『悩めるほどGood Life』って言ってるんですけど、自分が選んだ道の中で悩める、自分が自分で与えた課題の中で悩めるなんて、めちゃくちゃありがたいこと。そう考えれば、いろんなことが解決していきます。絶対にそうだなんて偉そうに断言できるわけじゃないんですけど(笑)。私は、そういうふうに生きてます」
■PROFILE■
1986年、沖縄県那覇市生まれ。ヒップホップクルー、YENTOWN所属。2006年にEP『Inner Research』でデビュー。同時期に米国アトランタに渡る。ストリートライフに身を置きながらファーストフルアルバム『Asia Wish Child』を制作し、2007年にリリース。翌年、アメリカ人の男性と結婚し、長女を出産。3年後、インディアナポリス大学で学士号を取得。家族で日本に戻り暮らすことを決めていた矢先、夫と死別する。その後、娘と共に沖縄に帰郷し、本格的な音楽活動を再開。2017年、Chaki Zuluのプロデュースによるフルアルバム『8』をリリース。その反響は海を越え、Red Bullと88risingの共同製作による長編ドキュメンタリー『Asia Rising: The Next Generation of Hip Hop』において、Joji、Rich Brianらと並び、大きく取り上げられた。2020年7月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たし、更なる飛躍が期待されている。
■INFORMATION■
「Queendom」(発売中)
〈CD収録曲〉
01. Queendom
02. GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR
03. やっちまいな feat. ANARCHY
04. WheU@
05. Yen Bloc
06. Heartbreak Erotica
07. 口に出して
08. どれにしようかな
09. Follow me
10. Revenge
11. Link Up feat. KEIJU, ¥ellow Bucks
12. Skit (Toyomi Voicemail)
13. 44 Bars
〈DVD 収録曲〉
Shook Shook MV
Bad Bad MV
GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR MV
口に出して MV
WheU@ MV ※未公開映像
Yen Bloc MV ※未公開映像
Bad Bad(2020 Summer Love Offshot Edition with Yomi Jah)※未公開映像
CD+DVD 3,500円(税込)
『Welcome to the Queendom at 日本武道館』
2022年3月14日(月)@日本武道館
Guest:ANARCHY/CHICO CARLITO/DOGMA/JP THE WAVY/KEIJU/kZm/MONYPETZJNKMN/NENE/OZworld/RIEHATA/¥ellow Bucks/Yomi Jah/YZERR/鎮座 DOPENESS/+SPECIAL GUESTS(A-Z 順)
※本公演は新型コロナ感染拡大防止のため、独自に定めたガイドラインでの 開催が予定されており、詳細は今後発表される予定
Words Miki Kawabe / Edit Kaori Watabe