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2022.11.23

吉田 羊 interview 体当たりで挑む、松尾スズキ作・演出の『ツダマンの世界』。ストイックに突き進む先に見えてきたしなやかな生き方

大人計画を主宰する松尾スズキ作・演出の2年ぶりの新作『ツダマンの世界』で、昭和初期、戦後という時代に翻弄された女性・数(かず)を演じる、吉田 羊。憧れだったという松尾スズキ演出舞台に初参加が決まり、戸惑いながら、そして楽しみながら全力投球している今の心境、さらに出演する作品全てで唯一無二の輝きを放っているその源についてインタビュー。そこには、ストイックに俳優業に向き合う、真摯な姿があった。

私も数と同じような人間。自己肯定感が低いところがあって、そんな自分を受け入れながら日々を送っている

ニット ¥63,800、スカート ¥85,800ともにケイタマルヤマ/ケイタマルヤマ 03-3406-1935 右手リング ¥165,000、右手リング ¥99,000、左手リング ¥264,000、ピアス¥319,000 すべてグリンビジュー/グリンビジュー @gren_jewelry_official 

――松尾スズキさんの描く世界に出演することが憧れだったとのことですが、そうなったきっかけは何だったのでしょうか?

「初めて拝見したのは2012年の古田新太さん、阿部サダヲさん、大竹しのぶさんの『ふくすけ』でした。当時の感想は……正直よくわからなかったんです。でも、なんだかすごいものを観たというのと、観終わった後もなお、ずっと何かを問いかけられているような感覚がありました。その後、松尾さんの作品を何度か拝見するうちに、弱さや醜さを必死に取りつくろって生きる人間の滑稽さをユーモアで包んで笑い飛ばしてあげる……というのが松尾さんの世界だと感じるようになったんです。観終わった後に“君も不完全でいいんだよ”と言ってもらっているような気がして、優しい気持ちになれるところが好きになりました」

――『ツダマンの世界』は、あらすじを読んだ段階で泣いてしまったそうですね。

「物語終盤に、私が演じる数がそれまでの我慢を積み重ねて溜め込んでいたものを一気に吐き出すシーンがあるのですが、どこか自分に重なって身につまされたのですよね。数は小説家の津田万治(ツダマン)と再婚し、無学であることや戦争未亡人という身の上に引け目を感じながらも、新聞を読んだり料理の腕を磨いたりして、小説家の妻としてふさわしくありたいと努力している。けれど、学も無ければ才能も取り柄もない自分は闘う武器を持たないという現実は変えようがなく、悔しさともどかしさと恥ずかしさと情けなさがないまぜになって爆発するんです。私も数と同じような人間ですし、自己肯定感が低いところがあって、そんな自分を受け入れながら日々を送っていますが、時々、自分を壊してしまいたい、腹の底のどろっとしたものを全部吐き出したいと思うことがあるものですから、数の痛みに共感したのだと思います。松尾さんが私の性格をご存知であて書きをされたのかな?と思うくらい」

――その後台本を読まれて、改めてどう感じましたか?

「数を含めた登場人物の多くが、人生に不満足だったり自信がなかったり、理不尽に振り回されているんですよね。うまくいっている人は一人もいない。でも、みな必死で生きていて、よりよい場所へ行こうとしていて。人生だいたい苦しくて辛いけれど、不格好でも死ぬまで生きようぜ、というようなメッセージを受け取りました。そして、自分の意志とは関係なく人生そのものを奪っていく戦争が物語の背景になっていることにも大きな意味がやはりあるな、と」

松尾さんの演出を受けると役者が途端にキャラクターとしてイキイキして見えてくるのがすごい

――物語の舞台は戦後の日本ですが、現代にも響くところがたくさんあるのではないでしょうか。

「そうですね。数が女性として純粋にツダマンにホレていると感じられるセリフも多いですし、それ故に嫉妬したり、ツダマンに嫌われまいと我慢したりする姿は、恋愛あるあるだなと思います。数のいじらしさ、可愛らしさは時代も性別も超えて共感していただけそうです」

――稽古に入られて、あこがれていた松尾さんの世界を実際に体験されて、どう感じられましたか?

「一番おどろいたのは、観客として観ていたときに、アドリブだろうなと思っていたところがすべて台本通りだったということ。ユーモアのあるセリフこそ、キャラクターと役同士の関係性に重きを置き、リアルに、繊細に受けの芝居を積み重ねていかれるのに感動しました。松尾さんの演出を受けると役者が途端にキャラクターとしてイキイキして見えてくるのがすごいです」

――松尾さんの世界観で、難しいところもあったのではと思います。

「正直、いまだちゃんと理解できているのか自信がないです。シリアスとユーモアが複雑に入り組んだ構造なのでお芝居の判断が難しいですし、ところどころ笑いを生む流れだったりもするので、正攻法が正解とも限らない。セリフとは裏腹な演出も多く、右往左往している状態です。何と言っても、正解は松尾さんの頭の中にしかないので、消去法で色々と、試行錯誤の日々を重ねています」

第一線で活躍されている役者さんのすごさをいろんな角度からとまざまざと見せつけられている

――松尾さんの演出について、俳優のみなさんはよく「優しい」と言われますが、吉田さんはどうお感じになられましたか?

「基本的にとてもお優しいです。まずダメ出しという言葉も使われませんし、否定をせずに、暫く泳がせて役者のアイデアを待ち、大きく違えば軌道修正、という演出法。そういうときは心なしかちょっと申し訳なさそうな感じで。ご自身も俳優さんだから気持ちがお分かりになるのかもしれませんね(笑)。俳優としても萎縮せずに挑戦ができる環境だなと思います」

――松尾さんが『松尾スズキと30分の女優 吉田羊の乱』(WOWOW)でご一緒したときに「手応えを感じた」とおっしゃっていましたが、吉田さんはいかがでしたか?

「手応えなんてとんでもない(笑)。余裕もありませんでしたし、松尾さんの笑いを体現できたという感覚は一切なかったので、お声がけいただいて、まずはしくじらずに済んだのかなと安心はしましたけど」

――吉田さん以外にも、松尾スズキさんの舞台に初参加の人がいらっしゃいますね。

「初参加ではないのですが、最初に本読みを聞いてすごいと思ったのは、町田水城さん。声がいいし、独特の間とキャラクター造形が秀逸です。立ち稽古に入ってからも、町田さんのお芝居が大好きで見入ってしまいます。間宮祥太朗さんも初参加とは思えぬ馴染みっぷりとコメディアンっぷりで、思い切りが良く、声もいいから迫力もあって、求められたことに120パーセントで打ち返す瞬発力の高さが素晴らしいです。第一線で活躍されている役者さんのすごさを、いろんな角度からまざまざと見せつけられている状態です」

自分のライバルは自分自身。課題をクリアして更新していくということで、生き生きとしていられる

――吉田さんからは本当にパワフル且つ繊細な輝きを感じますが、『GLITTER』という媒体名にちなんで、吉田さんの輝きのもとをお聞きしたいです。

「常に自分に課題を与え続けてきたことかなと思います。結局、自分のライバルは自分自身で、課題をクリアして自分を更新していくということを繰り返すことで、生き生きとしていられるのかなと。それに、壁があればあるほどやりがいを感じてしまうというサガもあります(笑)」

――ご自身に与えられた壁で大きかったものはどんなものですか?

「直近でいうと、舞台『ジュリアス・シーザー』ですね。それまではシェイクスピア作品には苦手意識しかなかったのですが、苦手だからこそ、いつも以上の時間をかけて準備をしました。それで初めて手応えみたいなものを感じたんです。およそ無理だと思うものに挑戦してこそ、成長があるんだなと実感した作品でした」

――吉田さんの“輝きのもと”は、お仕事なんですね。

「どうしてもお芝居に繋がっているものが多くなってしまいますね。ここ数年は自分の体に向き合う機会が多くて、年齢を重ねての変化にどう対処していくかというのが課題ではありますが、それも健やかに俳優を続けるための日々の鍛錬のひとつだったりするので、私の人生の目的というのはお芝居に収束していくんだなと思っています」

――どう食事を変えたのでしょうか?

「それまでは好きなものを好きなだけ楽しんでいたんですが、やはり年齢と共に食が細くなってきたので、効率よく体に良いものを食べて健康に生きたいと思うようになりました。からだにも美容にもいいもの、さらに消化のよいものとなると、発酵食品やお粥などと、どんどん粗食になっていって。続けていると体の調子がよくなっていったので、それでいいと思えるようになってきました。同じものを食べ続けることが、嫌じゃないということもわかったし。以前はこのようなルーティンを作ることが苦手だったんです。ルーティンを守れなかったときに、大きくバランスを崩してしまうんじゃないかという不安があって。でも、今はある程度規則的な生活をすると、体が楽だなと感じています」

――運動についてはどうですか?

「2019年から毎日午前中に4kmジョギングをしています。今までまったく運動をしてこなかったので、最初の頃は200mも走れなくて。そこから徐々に自分のペースとちょうどいい距離みたいなものを探っていって、その結果、今は4kmになりました」

自分を信じるって、つまり自分を愛してあげること。ちゃんと私自身を愛してあげたい

――お仕事以外で夢中になっているものはありますか?

「着物が好きなので、プライベートでも着る時間は楽しんでいます。でも、それもお仕事が充実してこそ楽しめることだったりします」

――本舞台でも数の着物と、昭和風のヘアスタイルがとてもよくお似合いでしたね。

「舞台では指導の先生に、着物を着たときの所作や裾捌きを教えていただいています。普段意識が足りていないところもわかったので、プライベートにも活かせるなと思っています」

――最後に、吉田さんが輝いていると思う人はどんな人ですか?

「私が自己肯定感が低いからかもしれないですが、自信を持って生きている方は輝いてみえます。努力に裏打ちされた自信ならもちろん眩いですし、根拠なく自信を持つ方も、「強いな」と思います。自分を信じるって、つまり自分を愛してあげることですものね。ちゃんと私自身を愛してあげたいです」

――輝いているなと思った人はいますか?

「最近なら俳優の奈緒さんでしょうか。撮影でお会いしたのですが、とてもお忙しいはずなのに、お顔が穏やかで忙殺されている雰囲気が一切なくて、日々の努力はもちろん、ご自分のペースを守り、ご自愛なさっておられるのだろう、という印象を受けました」

――吉田さんも忙殺されている雰囲気がしませんし、とても輝いていると思います。

「ありがとうございます。舞台もこれから本番に向かいますが、ルーティンを守りながら、忙殺されないように気をつけていきます(笑)」

 

■PRESENT■

吉田 羊さんの直筆サイン入りチェキを1名様にプレゼントいたします!

【応募方法】

Instagramからご応募ください。

1.GLITTER公式アカウント:@glitter_magをフォロー

2.GLITTER公式アカウントの【吉田 羊interview】の投稿に「いいね」

以上で応募完了!

 

【応募締切】

2022年12月25日(日)23:59

※ご当選者様にはDMでご連絡を致します。抽選時にフォローを外されている方は対象外となりますのでご了承ください。

 

■PROFILE■

吉田 羊

2月3日生まれ。福岡県出身。1997年女優デビュー。2015年報知映画賞、ブルーリボン賞、日本アカデミー賞など数多くの助演女優賞を受賞。2016年には第24回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞、2021年には第56回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。2022年は、ドラマ『妻、小学生になる』、映画『沈黙のパレード』『マイ・ブロークン・マリコ』、配信ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』、『それ忘れてくださって言いましたけど。』などに出演。

 

■INFORMATION■

『ツダマンの世界』

作・演出:松尾スズキ

出演:阿部サダヲ 間宮祥太朗 江口のりこ 杉村蝉之介 笠松はる 見上 愛 皆川猿時 吉田 羊 ほか

<東京公演>2022年11月23日(水・祝)〜12月18日(日)Bunkamuraシアターコクーン

<京都公演>2022年12月23日(金)〜12月29日(木)ロームシアター京都メインホール

 

 

Photos Yukie Abe / Styling Asuka Ishii / Hair&Make-up Eri Akamatsu@ESPER / Words Hiromi Yamanishi / Edit Kaori Watabe

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