海外在住エディター八木橋の「時には起こるよ、ムーブメント!」Vol.3/他人のエロスも蜜の味
普段はLAに拠点を置き、ときにはウェルネス(要は幸せなライフスタイル)を追い求めて海外の都市へ行っちゃう、ノマドなエディター八木橋が、世界で起きるウェルネスにまつわるムーブメントを紹介する連載。今回は、ハリウッドの、とある一組の”カップル”がもたらした、官能的な気づきについてお届け!
他人のネガティブではなく、ポジティブでハッピーに!
11月22日は、「いいふうふ」の日だった。語呂合わせでこう読ませるのは日本語だけに有効なので、筆者の住むアメリカではこの日はカップルの日ではないが、この秋、欧米で注目の的になった一組の夫婦がいる。オスカー・アイザックとジェシカ・チャスティンだ。この2人は、実際のカップルではなく、今秋よりHBOで放映開始になったドラマシリーズ「Scenes of a Marriage」で、ジョナサンとミラという夫婦を演じている。これは、イングマール・ベルイマンによるスウェーデンの同名作品をリメイクしたもの。(1973年のオリジナルのミニドラマシリーズは、映画にもなって日本でも「ある結婚の風景」と邦題が付いた)その名のとおり、結婚(生活)にまつわる風景が、2人を通じて写し出されていく。彼の言い分もあり、彼女の言い分もある。結婚は、男女のものでもあり、家族のものでもある。2人(以上)のものでもあり、個人のものでもある。誰にも起こりうるもので、同時に、その人だけのものでもある。結婚を通して、愛や信頼、すれ違いと憎しみなどが交錯し、人生のさまざまなシーンが繰り広げられるのだ。
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オスカーとジェシカの演技や作品の素晴らしさはさておき、なぜ、主演の2人が注目の的になったか、に話を戻そう。それは、ヴェニス・フィルム・フェスティバルでの出来事がきっかけ。2人がレッドカーペットに登場し、立ち止まって数々のカメラからフラッシュがたかれるなか、オスカーがジェシカの横顔を愛しそうに見つめた後、ジェシカの左腕の内側へキスした。(脇を嗅いだ、と表現する人も)その様子に、世界が、エロ過ぎる!!! ロマンティック!!! (赤面して無言)!!!など、反応したのだ。その日から、ソーシャルメディアをあまりにこのシーン(特にこのシーンをスローモーションにしたもの)がかけめぐったので、パンデミックで、世界の人々がエロスとロマンに飢えていたことを思い出させた。
実際、2人のスクリーンでの相性はもちろんのこと、実生活でも友人であり、オスカーとジェシカには、それぞれ妻と夫がいる。野暮なことに、筆者が感じたことと言えば、私がオスカーの妻なら、このシーンは直視できたもんじゃない、ということであった。そんなオスカーは、『DUNE/デューン 砂の惑星』などの話題作への出演も続いているし、いま脂がのりにのっている俳優。やきもちやかないのかなー、と再び、野暮なことを考えて、でもさ、俳優の妻になった時点で、そんなことはわかっているよね。
他人の家庭には、それぞれのかたちがある。セックスレスだって、自分たちに合っていればいいのだし、いわゆる良い夫婦とされる像に縛られる必要もない。結婚を通じて得られる不幸と幸せは、さまざま、それぞれにあるのだから。あらためてそう感じたのと、「他人の不幸は蜜の味」というけれど、世界に大きな不幸が襲うと、「他人の幸せが蜜の味」にもなりうるのではないかしら。最近、感情が“濡れて”いないなら、他人のエロティシズムと幸せで蜜の味を堪能したいものだわ。
エディター八木橋
PROFILE
ニューヨークにある大学への留学を経て、帰国。出版社に入社後、インターナショナル誌の編集に携わる。2014年に、再度渡米。以降、NYやLAをベースにエディターやコーディネーターとして活動する。
Illustration Hikalu Jane