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2022.07.10

【STAGE REPORT】橋本良亮(A.B.C-Z)主演ミュージカル『スワンキング』若き美貌の国王と退廃的な天才作曲家を巡る愛憎劇

 ミュージカル「スワンキング」が東京国際フォーラム・ホールCにて6月8日に開幕した。劇作家G2による新作オリジナルミュージカルである本作は、19世紀ヨーロッパを舞台に、音楽に魅了され破滅的浪費を繰り返す狂王・ルートヴィヒ二世と、天才的な才能を持ちながらも借金と女性関係に苦しんだ作曲家リヒャルト・ワーグナーの愛憎劇を描く。

 バイエルン国王であり、若き美貌の青年ルートヴィヒ二世を演じるのは、本作がミュージカル初主演となる橋本良亮(A.B.C-Z)。役作りのために13kg減量したという橋本は、手足の長さと引き締まった腰がよりいっそう際立ち、白い衣装で佇む姿は儚くも美しい王そのもの。A.B.C-Zのメインボーカルを務めていることもあり、ほとんど歌で構成されるミュージカルへの出演が楽しみだったという。ボイストレーニングに通い、ミュージカル特有の発声方法や歌唱に臨んだというだけあって、もともとの歌唱力がさらにレベルアップ。繊細で伸びのある歌声は、声量はもちろん力強さが加わり、ルートヴィヒ二世の心情が歌声によく表れていた。そのルートヴィヒ二世が崇拝する天才作曲家を、俳優として映像や舞台問わず数々の作品に出演する別所哲也が演じる。恰幅のよさも相まってワーグナーとしての威厳と迫力は十分で、劇中では暴君ぶりを発揮するが、喜怒哀楽が人一倍激しく、激情したと思ったら泣き出したり、上機嫌かと思ったら諦めの境地で打ちひしがれたり…。誰よりも人間臭さを感じるキャラクターに仕上がっていた。

オープニング曲「夢の王国へ」を歌う、エリザベート(夢咲ねね)とルートヴィヒ二世(橋本良亮)。

 物語は、皇妃エリザベートのもとにルートヴィヒ二世の死体が湖から上がったという知らせが届くシーンから始まる。アンサンブルのコーラスとオーケストラの音色が流れると、まるで夢の中のような幻想的な雰囲気の舞台上でエリザベート(夢咲ねね)とルートヴィヒ二世(橋本良亮)がオープニング曲「夢の王国へ」をデュエット。序盤から引き込まれるような鬼気迫る歌声と圧倒的な世界観を見せつけられて、これから始まる物語への期待が膨らむ。なぜルートヴィヒ二世は死んでしまったのかーーここから時はさかのぼり、宿の一室には絶望のどん底にいる作曲家リヒャルト・ワーグナー(別所哲也)。妻に愛想を尽かされるこのシーンでワーグナーの横暴な性格、お金と女性にだらしのない性格が一気に見てとれる。そんなワーグナーの音楽的才能に惚れ込んでいるルートヴィヒ二世が莫大な報酬をもって惜しみない援助を申し出るわけだが、赤いロングマントを纏って王座に座って登場するルートヴィヒ二世の眩しいほどの存在感に注目。マントを翻しながら歌う様は、「若き美貌の王」「白鳥王」と言われたルートヴィヒ二世そのもの。ルートヴィヒ二世とワーグナーが初めて出会うシーンでもあり、主要キャストとアンサンブルたちで歌う「白鳥の騎士(ローエングリン)」は圧巻。豪華絢爛な舞台装置とキャストたちの煌びやかな舞台衣装も相まって一気に19世紀ヨーロッパに引き込まれる。「芸術の力でドイツを統一する」ことを目指すルードヴィヒ二世は、ワーグナーの夢である大作オペラ「ニーベルングの指環」を上演することを共に夢見る。

 ワーグナーを援助することに国家予算をつぎ込み、国家政策も疎かにするルートヴィヒ二世に、もちろん周囲は批判的で、弟・オットーや臣下たちは心配し忠告するが国王の音楽への想いは止まらない。臣下3人が、若き王の政策を嘆きながら歌唱するシーンは、思わずクスッとしてしまうようなユーモアさがある。そして今江大地(関西ジャニーズJr.)が演じるオットーは、兄・ルートヴィヒ二世を慕い、芸術に傾倒する兄の代わりに戦争にも繰り出す心優しい弟。もともと共演経験もある橋本と今江は、初共演の頃から今江が橋本を慕っているそうで、同事務所の良き先輩・後輩でもあり兄弟役はまさに適役。ひたむきな弟役を見事に演じ、ふたりの兄弟デュエットは必見だ。

ワーグナー(別所哲也)、コージマ(梅田彩佳)、ハンス(渡辺大輔)の知られてはいけない三角関係。

 国王の政策に民衆の不満が募るなか、絶大な援助を受けるワーグナーは信頼する指揮者ハンス・フォン・ビューロー(渡辺大輔)とその妻コージマ(梅田彩佳)を呼び寄せ、創作に没頭するが、ワーグナーとコージマは人知れぬ関係に。ふたりの関係を知るハンスは指揮者として、夫として、黙認しつつも思い悩む気持ちが悲壮感溢れる歌声に滲んでいた。そうしてワーグナーが作曲した楽劇「トリスタンとリゾルデ」はハンスの名指揮で成功をおさめるが、同じ頃コージマはワーグナーの子をみごもってしまう。「作品の成功のために理解してほしい」と毅然とした態度のコージマには、のちにワーグナーの敏腕マネージャー兼プロデューサーとなり彼を生涯サポートする覚悟と強さを予感させる。作品上演の夢を叶えたいワーグナー、ワーグナーを献身的に支えるコージマ、禁断の三角関係に悩むハンスが歌う「いのち輝くとき」から、ルートヴィヒ二世、ワーグナー、コージマ、ハンスで歌唱する「聖なるカルテット」への流れは、4人の声色が重なりあい、それぞれの思惑が混在するハーモニーに心が震えた。やがて国王の政策に不満を持つ臣下と民衆によって戦争を許可せざるを得なくなるルートヴィヒ二世。ワーグナーを強制的にミュンヘンを追放し、ルードヴィヒ二世とワーグナーの”夢”は消えかける。ここから一幕終わりにかけての激動のストーリー展開は激情のせめぎ合い。一瞬たりとも目を離せない熱狂的な一幕からクライマックスの二幕に続くーー。

ロマンチックな舞台装置と舞台衣装、個性的なキャラクターに魅入ってしまう。

 女性プリンシパルの華やかでありながらも男性陣に負けない歌声と存在感も見どころだ。終始ワーグナーの一番近くでサポートし続けたコージマは、ルートヴィヒ二世やワーグナーとはまた違った意志の強さを感じる歌声で、特に夢を諦めかける男性陣を励まし奮い立たせるシーンが印象的。コージマを演じた梅田彩佳は、アイドル卒業後は数々のミュージカル作品に出演し、自身もミュージカル好きというだけあって、伸びやかな歌声やセリフの言い回しは安定感抜群。全身からコージマの強かな一面と「人のためになることをするのが生きがい」という思いが感じられる。一方で、ルートヴィヒ二世の姉のような存在で物語のキーポイントで度々登場するエリザベートは、ミュージカルファンなら誰しもが知るキャラクター。透き通るような繊細な高音の歌声でルートヴィヒを諭す姿が印象に残る。演じる夢咲ねねは、元宝塚歌劇団星組のトップ娘役であり、別作品でも「エリザベート」を演じた経験が。一般的に知られるエリザベートとはまた違う一面を意識したというが、舞台上に登場するだけで光を集めパッと華やかになる存在感はさすがの一言。そのエリザベートの妹・ソフィもルートヴィヒ二世を一途に想い続ける姿が、透明感溢れる歌声と相まって思わず応援したくなってしまう。さらに、華やかな貴族たちや泥臭い民衆、そして夢の中の精霊を次々演じるアンサンブルキャストは、多彩な楽曲とともにテンポ良く進む物語の情景をより華やかに彩っていた。

手練のプリンシパルたちはもちろん、アンサンブルキャストの存在も本作の魅力を高める要因のひとつ。

 「これだけは譲れない」という気持ちや執着心、好きな人に振り向いてもらえない切なさや思い通りにならない嫉妬心など自分だけではどうにもならないことに一喜一憂したりする感情に共感する瞬間が多々訪れる。登場人物それぞれに譲れない何かがあり、真っ直ぐに突き進む生き様が印象的で、今回の初演に全力で挑むハイレベルな役者陣だからこそ成せる所業だ。一言で”愛憎劇”というとスキャンダラスでドロドロとしたイメージだが、クラシック音楽にのせてミュージカルで表現すると、ここまでロマンチックかつエモーショナルな物語になるのかと思うほどに、本作の確立された世界観は時間を忘れて没頭してしまうはず。動乱の世界情勢の中、国家を敵に回してでも夢を追い求めた”狂王”と”天才”は、お互いの夢を達成できたのかーーぜひ劇場で見届けてほしい。

 

ミュージカル『スワンキング』

脚本/詞/演出:G2

音楽:荻野清子

出演:橋本良亮(A .B .C-Z) 別所哲也 梅田彩佳 渡辺大輔

今江大地(関西ジャニーズJr.) 牧田哲也 夢咲ねね

【東京公演】2022年6月8日(水)~17日(金)東京国際フォーラム ホールC

【大阪公演】2022年7月1日(金)~3日(日)オリックス劇場

【愛知公演】2022年7月9日(土)、10日(日)刈谷市総合文化センターホール

【福岡公演】2022年7月17日(日)、18日(月)キャナルシティ劇場

 

Photos Aki Tanaka  / Words Ayako Nagaoka / Edit Kaori Watabe

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