尾上菊之助×中村獅童×尾上松也 interview『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』開幕迫る!不朽の名作に挑む覚悟と熱誠
「ファイナルファンタジー」シリーズ屈指の人気作『ファイナルファンタジーⅩ』が歌舞伎×圧巻の映像を駆使し、IHIステージアラウンド東京でまもなく開幕を迎える。会場となるIHIステージアラウンド東京は、周囲を取り囲む360度全てに展開されるステージと回転する観客席に、映像、音楽、照明など画期的な方法で融合することで、他では決して味わえない刺激的なエンターテイメント体験ができる。超巨大スクリーンに映し出される『ファイナルファンタジーX』の圧倒的な映像世界に没入できるのも大きな魅力だ。この壮大な世界観で届けられる本作は、【ティーダとユウナの物語】【白熱のブリッツボール】【異界送り】【ラストバトル】など見どころ満載かつ、物語の始まりから終わりまでを前後編にわたって描く。公演が発表された時から多方面で注目されている本作の企画・演出、そして主人公・ティーダを演じる歌舞伎俳優の尾上菊之助と、アーロン役の中村獅童、シーモア役の尾上松也。3人のそれぞれの作品への想いや、媒体名『GLITTER』にかけて、“輝く秘訣”を訊いた。
『FFX』ファンの方にも納得していただけるよう、最初から最後まで細部にわたって描いている(菊之助)
――今回『ファイナルファンタジーX』(以下『FFX』)を新作歌舞伎という形で上演すると発表されたとき、『FFX』ファンからも大きな反響がありました。この作品を企画した菊之助さんは、反響に対してどう思われましたか?
菊之助「期待の声も多くいただいたので、その声に応えたいと強く思いました。『FFX』ファンの方にも納得していただけるよう、最初から最後まで細部にわたって描いておりますので、ご満足いただけるよう鋭意製作中です」
獅童「今回の制作を発表したとき、ツイッターでトレンド入りしたんですよ。その中で“獅童はアーロンなんじゃないか?”っていう予想がされていて。アーロン派とワッカ派に分かれていたんですけど、アーロンのほうが多かったのでホッとしています(笑)。それにトレンド入りするほど反響が大きかったことで、いかにこの原作が愛されているかを知りました。僕自身、ゲームはほとんどやったことがなかったんです。ただ、そんなボクでも『FF』のことは知っていた。それくらい人気にある作品だということは認識しておりましたし、ゲームも歌舞伎も同じエンターテインメント。僕らのお届けする空間すべてを楽しんでいただきたいと思っています」
――上演されるのはIHIステージアラウンドという特別な劇場ですし。
獅童「だから、舞台と客席という感じで分散されるのではなく、お客様参加型と言いますか、お客様も僕たちと一緒に旅に出ている。お客様も自然にその世界の中にいるような舞台になればと思っています」
松也「僕も作品の発表がされたとき、周りの友人たちからたくさん連絡がきました。それで、こんなにもファンがいるんだということを身をもって感じて。尚且つ『FF10』が発売されたのが2001年で、もう20年も前になるんですよね。それなのにみなさんがとても興奮しているのが伝わってきましたし、それだけこの原作が愛されているんだと実感しました」
ティーダが持っている太陽のような明るさ、それは大事にして演じていきたい(菊之助)
――現時点で、ご自身の役柄に対して“こう演じたい”というような想いはありますか?
菊之助「僕が演じるのはティーダ。“ティーダ”は沖縄の言葉で“太陽”を表すんです。ゲームでは声優の森田成一さんが担当なさっています。今回、森田さんに公演スポットのナレーションをしていただけることになり、スタジオ収録でお会いした時に聞いた『劇場で待ってるッス!』という声が、晴れ渡る青空のような爽やかさがありつつも、強さがある、まさに太陽だと感じました。自分がティーダを演じる際も、歌舞伎ならではのティーダを作り上げていくとともに、ティーダが持っている太陽のような明るさ、それは大事にして演じていきたいと思っています」
獅童「アーロンは、そんなに口数が多いわけではないですけど、ティーダたちを導いて行く人物で、とても強い。しかも、内に秘めた魂の持ち主なので、そういった部分を感じていただけたら嬉しいです」
松也「実は僕も、ゲームでシーモアの声を担当なさっている諏訪部順一さんに連絡を取らせていただきました。もちろんモノマネになってはいけないのですが、ゲームのファンで今回の舞台を観に行きたいと思ってくださった方の多くは、ゲームの声優さんの世界観と質感も大切になさっていると感じています。ですので、それを無視してはいけないと思っています。歌舞伎の場合、古典を上演するときは必ず先輩方が演じたものを拝見したり、思い浮かべたりしながら、教えていただいて勤めます。そういう意味では、今回もそれに少し近いものがあるような気がします」
――ゲームの中で声優さんたちが演じていたものを参考にしつつ、今作に臨むという。
松也「ゲームの世界でされているものを軸に考え、そこからどの様に歌舞伎にしていけばいいのかなと考えています。ただ、シーモアに限らずですが、今回の舞台ではゲームでは描かれていなかった部分、描けなかった部分がたくさん出てきます。それはゲームをプレイしていても見られない楽しさを感じると思いますし、だからこそ、ゲームのファンの方も納得できるような役作り、構成にしていければと思っています」
他の劇場にはない感覚を味わっていただけるなら、僕らが走り続ける意味はある(松也)
――先ほど獅童さんも少しお話されていましたが、IHIステージアラウンド東京は360度客席が回転する劇場です。そこを今回の『FFX』を上演する場として選ばれた理由を教えていただけますか?
菊之助「今回の舞台では『FFX』の旅の始まりから終わりまでを全て描くので、非常に場面転換が目まぐるしくなります。そういった展開が多い『FFX』にとっては、IHIステージアラウンド東京は、とても相性のいい劇場。しかも、8Mの巨大スクリーンもありますので、ゲームでの映像をブラッシュアップし、舞台中に流せればいいなと思っております」
獅童「新しいものを作るとき、転換が一番難しいんです。転換するときって、どうしても退屈になってしまうので。だから、歌舞伎の劇場でやるときも、すごく転換を考えるんです。そういう意味では、できれば転換は少ないほうがいいですけど、『FFX』は壮大なストーリーなのでどうしても必要になる。でも、今回はそんな場面も楽しめるんじゃないかな」
――松也さんはIHIステージアラウンド東京の経験者でもいらっしゃるので、その大変さというのも身を持って知っていらっしゃいますよね。
松也「もう、とにかく走ります(笑)。出番が多ければ多い人ほど、走って追いかけなければならないので、それはなかなか大変です。ただ、大変ではあっても、先ほど獅童さんがおっしゃったように、転換ストレスはゼロ。お客様は、ずっと途切れることなく作品を観ることができます。それがこの劇場の醍醐味ですし、どこを観てもその世界になっている。それはお客様にとって非常に楽しいと思いますので、そういう他の劇場にはない感覚を味わっていただけるなら、僕らが走り続ける意味はあると思います(笑)」
――今回、菊之助さんがゲームという題材を新作歌舞伎に選ばれたのは、若い世代にも歌舞伎を観ていただきたいということを意識なさったからですか?
菊之助「それもありますが、何よりも登場人物が生き生きとしていて、それぞれの葛藤を抱きながら生きて、成長していく。そんなひとりひとりが輝いている『FFX』のストーリーに魅せられました。その素晴らしい物語を伝えたくて、一場面を丁寧に描いているので、舞台を通じて楽しんでいただきたいですね」
あきらめず、歌舞伎を辞めず、いつかいい役をやってみたいという気持ちを持ち続けてきた(獅童)
――まさに今、菊之助さんから『FFX』の登場人物はひとりひとりが輝いているというお話がありましたが、みなさんご自身が輝く秘訣を持っていたら教えてください。
菊之助「なかなか難しいですね……。しいて言うなら、人をリスペクトをする気持ちでしょうか。どうしても自分と違っているところに目がいきがちですが、まずはその人の生きざまや大切にしていることをリスペクトする。自分に持っていないものを相手は持っているということを認識し、改めて自分を振り返るからこそ自分も周りも輝けるんじゃないかと思います」
――それは舞台の上でも言えることですか?
菊之助「舞台の上は、まさにそうです。相手をリスペクトすることが大切ですし、僕はそうありたいと思っています」
獅童「難しいことですけど、モチベーションを保つことですね。情熱とか夢と言い換えてもいい。人前に立たせていただくからには、そういうものを持たないといけないと思っています。若いときの燃え滾る気持ちっていうのは誰もが持っていて、いくつになってもそういうものがないといけないなと僕は思っていて。何事も気持ちが冷めかけることが一番いけない。ラーメン屋さんだって、そうでしょ? 情熱がなくなったらおいしいものなんて作れない。だから、僕は役者としてのモチベーションを保つということを、いつも自分の課題にしています」
――観客側も舞台上から伝わってくる役者さんの情熱に魅せられるところはありますからね。
獅童「僕はそうなると信じています。僕の場合、父親が歌舞伎役者を廃業していたこともあって、『主役をやるのは難しいよ』って若い頃に言われたことがあるんです。でも、僕はあきらめなかった。歌舞伎を辞めませんでしたし、いつかいい役をやってみたいという気持ちを持ち続けてきたんです。そのためにも外での活躍を求めてオーディションを受け、その結果、みなさんに少しだけ“中村獅童”と言う名前を知っていただけるようになりました。それもモチベーションを失わなかったからだと思います。年を重ねると誰でもハングリーな気持ちが薄くなっていくと感じます。ただ、やっぱり僕は主役をやらせていただけるようになった今でも、それが当たり前だと思ってはいけないと思っていますし、60歳、70歳、80歳になってもモチベーションを持ち続けていられたら最高ですよね」
松也「これが輝く秘訣なのかはわからないのですが、僕のガソリンになっていることは危機感みたいなものです。僕も獅童さんと同じように主役は難しいという立場だったのですが、それをなんとか可能にしたいと思いながらずっとやってきたところがあります。ですので今、主役も勤めさせていただけるようになったことは本当にありがたいですし、夢のような時間です。でも、そこで何かしらの成果を出していかないと次はないとも思っていて。その意識は、歌舞伎以外の分野でもチャンスをいただき、いろいろな方と関わっていく中でどんどん高まってきていますし、それが自分にとっての推進力になっています。しかも、大先輩で、僕からしたらある種安定しているように見える菊之助さんや獅童さんが、こうやって新しいことのチャレンジをしている。その姿が僕にとってとても刺激的ですし、こういう姿勢であるべきだと思わされますね」
――確かにとても素晴らしいことだと思います。
松也「それに僕は自分が真ん中に立つまでというのは、言ってしまえばナニクソ根性でしかなかったんです。でも、実際にそこに立ってみると、こんなに大変なことを、あんなに涼しい顔で先輩方はされていたのか!?と驚きました。それがわかると、もうそこにはリスペクトしかありません。僕は先輩たちに比べたら、まだまだ失敗することも多いですが、だからこそひとつひとつ積み上げていくしかないですし、先ほど獅童さんもおっしゃっていたように、最初に危機感を覚えながらやっていた頃の情熱は、いくつになっても忘れたくないです。そして、その根底には何があるかというと、やっぱり歌舞伎が好きだっていう気持ちなんです。これは菊之助さんや獅童さんも同じだと思いますけど、みなさん歌舞伎を愛している。だから、そこに対する情熱は、死ぬまでなくしたくないですね」
■PROFILE■
尾上菊之助
1977年8月1日生まれ、東京都出身。1984年2月、歌舞伎座『絵本牛若丸』で六代目尾上丑之助を名乗り初舞台を踏む。1996年、5月、歌舞伎座『弁天娘女男白浪』の弁天小僧菊之助ほかで五代目尾上菊之助を襲名。『伽羅先代萩』の政岡、『摂州合邦辻』の玉手御前、『義経千本桜』の知盛・権太・忠信、『春興鏡獅子』『京鹿子娘道成寺』など、立役・女方として、時代物、世話物、舞踊と幅広いジャンルで数々の大役を勤める。発案、主演を務めた、シェイクスピアを歌舞伎に翻案した『NINAGAWA 十二夜』を 2005年に実現させ、2019年には新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』で主人公ナウシカ役を務め、2022 年の再演ではトルメキア皇女クシャナを演じた。主なTVドラマ出演作品に、TBS日曜劇場『下町ロケット』『グランメゾン東京』や、NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』などがある。2023年1月にはNHK土曜ドラマ「探偵ロマンス」に出演した。
中村獅童
1972年9月14日生まれ、東京都出身。1981年6月、歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』御殿の豆腐買の娘・おひろで二代目中村獅童を名乗り初舞台。以降、古典から新作まで、幅広く様々な役を勤める。2015年9月南座で初演した新作歌舞伎『あらしのよるに』、2016年からは「ニコニコ超会議」にて行われている「超歌舞伎」で主演。2019年には寺田倉庫、新宿FACEにて上演したオフシアター歌舞伎『女殺油地獄』で河内屋与兵衛を勤めるなど、新たな挑戦を続けている。歌舞伎のみならず、映画『シグナル100』『みをつくし料理帖』『キャラクター』『孤狼の血 LEVEL2』や、NHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」「鎌倉殿の13人」に出演。さらに『DEATH NOTE』「ルパン三世 霧のエリューシヴ」『劇場版HUNTER×HUNTER-The LAST MISSION-』など数多くのアニメで声優としても活躍するなど、歌舞伎の枠を超える活躍で、新たな歌舞伎ファンの開拓に貢献している。
尾上松也
1985年1月30日生まれ、東京都出身。1990年5月、『伽羅先代萩』の鶴千代役にて二代目尾上松也を名乗り初舞台。近年は立役として注目され、2015年より、次世代の歌舞伎界を担う若手花形俳優が顔を揃える『新春浅草歌舞伎』に出演し、大役を勤める。一方、2009年から2021年まで歌舞伎自主公演『挑む』を主宰。歌舞伎以外でも、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』『エリザベート』にも出演。また、ディズニーアニメーション映画「モアナと伝説の海」日本語吹替版のマウイ役や『バッドガイズ』日本語吹き替え版の主演ウルフ役やNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」、「鎌倉殿の13人」、TBS日曜劇場「半沢直樹」、主演ドラマ「さぼリーマン甘太朗」「課長バカ一代」等にも出演し、活躍の場を広げている。
■INFORMATION■
木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』
企画・構成:尾上菊之助
脚本:八津弘幸
演出:金谷かほり 尾上菊之助
出演者:尾上菊之助 中村獅童 尾上松也
中村梅枝 中村萬太郎 中村米吉 中村橋之助 尾上丑之助 上村吉太朗 中村芝のぶ
坂東彦三郎 中村錦之助 坂東彌十郎 中村歌六/尾上菊五郎(声の出演)
※中村歌六、中村錦之助、尾上丑之助は後編のみの出演となります。
<東京公演>2023年3月4日(土)~4月12日(水)IHIステージアラウンド東京[豊洲]
Photos Hirohisa Nakano / Words Eriko Takahashi / Edit Kaori Watabe