【STAGE REPORT】小瀧 望(ジャニーズ WEST)初主演ミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』運命に翻弄されながら戦っていく若者たちの鮮烈な物語
青春ミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』が2023年1月7日、東京・日生劇場で開幕した。『オペラ座の怪人』や『キャッツ』、『エビータ』など数々の名作ミュージカルの作曲を手掛けてきたロンドン・ミュージカル界の巨匠サー・アンドリュー・ロイド=ウェバーと、『We will Rock You』を手掛けた人気作家ベン・エルトンによって誕生した大ヒットミュージカルだ。北アイルランド紛争のドキュメンタリー番組に胸を打たれたベン・エルトンが実話をもとに書き上げた本作は、日本では2006年にジョーイ・マクニーリー演出、櫻井 翔主演で初演、2014年にも上演されている。今回は、ミュージカル初演出となる劇作家・演出家の瀬戸山美咲を演出に迎え、ミュージカル初挑戦の小瀧 望(ジャニーズ WEST)が主演を務める。瀬戸山と小瀧は、『MORSE-モールス-』(2015年上演)以来の再会。初ミュージカル同士のタッグに注目が集まった。
物語の舞台はイギリス領北アイルランドの首都ベルファスト。北アイルランドの独立を訴える組織でカトリック派のIRAの活動が日に日に盛んになり、カトリック派とプロテスタント派の宗派の争いは街を分断していた。そんな中でも、サッカーを愛する人々は試合を「ザ・ビューティフル・ゲーム」と呼び、彼らにとってサッカーをすること、サッカーの試合を応援することは人生そのもの。
小瀧演じる主人公・ジョンはそんなサッカーチームのエース選手で、将来はプロになることを夢見ていた。チームメイトであるトーマス(東 啓介)、ダニエル(新里宏太)、ジンジャー(皇希)、デル(小暮真一郎)たちと日々サッカーに青春を捧げ、チームの監督であるオドネル神父(益岡 徹)による厳しいトレーニングのもと、国内リーグでの優勝を目指して汗を流している。ケルト音楽を思わせるオーバーチュアの後、緑のユニフォームに身を包んだジョンらがサッカーへの情熱を歌い、女性陣はそんな彼らを黄色い声援で応援する。サッカーにかける若者のエネルギーと将来への期待に溢れるナンバーが物語のオープニングを盛り上げる。チームメイトがそれぞれオドネル神父に喝を入れられるシーンでは、ジョン、トーマス、ダニエル、ジンジャー、デルのキャラクターや関係性が見てとれ、5人それぞれの物語に期待が膨らむ。なかでもひときわ背の高いジョンとトーマスは目を惹く存在で、正反対の性格だが親友同士である2人の展開も気になるところ。青春まっ只中な彼らは集合写真を撮り、「これを見ればあの頃の自分が何者であるかを思い出すだろう」と説くオドネル神父の言葉が印象的で、まさにこの瞬間が彼らの人生で一番輝いていた時であることを予感させるーー。
監督からの期待の高さ故にチームメイトの靴を全て磨くことになったジョンがロッカー室で歌唱するシーンは、小瀧ののびやかで爽やかな歌声に魅了される。そんなジョンと惹かれ合うヒロイン・メアリー(木下晴香)とお互いに素直になれない恋心を歌うデュエットは必見。可憐な見た目とは裏腹に気が強いメアリーの性格を圧倒的な歌唱力で表現する木下の歌声と、「お前なんかどうでもいい」と言いつつも素直になれない気持ちがどこか甘い歌声に表れている小瀧。友達から恋人になる心境の変化を見事に歌で表現して魅せた。
一方で、チーム内では宗派の違いから差別や揉め事が度々起きており紛争による不穏な空気を感じる場面へ。紛争による影響で開催が危ぶまれた決勝戦だったが、無事に開催され、ジョンらのチームは優勝をつかむ。サッカーについては、元日本代表FWの大久保嘉人氏が監修したとのこと。テンポや曲調がアップダウンする音楽に合わせてプレイするサッカーシーンは、ミュージカルらしくもありつつサッカーの緊迫した雰囲気が伝わってくる。バーで祝勝会を上げるチームメイトと女の子たちが、酒に酔う様を歌ったナンバーは、小瀧がジャニーズ WESTでの楽屋でもよく歌って練習していたそう。バーのカウンターの上で歌うクリスティン(豊原江理佳)のタフな歌声や、若者同士の陽気なノリの中で、内気なバーナデット(加藤梨里香)と運動音痴なジンジャー(皇希)の恋が急展開するのもこのシーンの見どころだ。
決勝戦にも見事に勝利し、それぞれのラブストーリーも進展するが、メアリー、クリスティン、バーナデットの女子3人で恋バナに盛り上がるシーンから、一転。宗派の争いによる悲しい現実がだんだんと物語に影を落としていくーー。
サッカーへの情熱や友情、恋愛模様を描く一方で、歴史上での北アイルランド紛争の影響が描かれるシリアスなシーンも多い本作。社会派演劇に定評のある瀬戸山の演出によって、ポップな青春ミュージカルなだけでなく、現実の事象の中での人間模様がよりドラマチックに描かれている。プロサッカー選手を目指すジョンは恋人メアリーとの愛を育みながらも、変わりゆく仲間との友情に葛藤し、争いに巻き込まれ人生を大きく左右する選択を迫られることになる。メアリーは、カトリック派だが署名運動やデモ行進など非暴力でアイルランドの独立を願う平和主義者で、たびたびジョンらと意見が合わないことも。そして、チームメイトのトーマスはプロテスタント派を目の敵にするカトリック派で、カトリックではないチームメイトのデルをチームから追放してしまう。物語が進むにつれて内戦により徐々に暴力的になってしまうトーマスと、それを止めようとするジョンや仲間たちとのやりとりが切ない。明るく快活で男の子との言い合いにも負けないクリスティンと無神論者のデルは、宗派にとらわれない愛を育み、争いの中でも自由に生きることに一生懸命。宗派争いの犠牲になってしまうジンジャーと、結ばれたばかりの愛を奪われてしまうバーナデット、窃盗癖があるが仲間想いなダニエル、教え子を厳しくも正しく導こうとするも時代に抗えない無力感を覚えるオドネル神父など、1970年頃の北アイルランドを舞台に時代の波に翻弄され葛藤する登場人物たちを実力派なキャスト陣が好演している。ストーリーの核となるメロディがキーとなるシーンで繰り返し使われるリプライズによって、登場人物の心境の変化や成長を感じられるのもミュージカルならでは。躍動感あふれる音楽と共に繊細な人間模様がドラマチックに展開していく物語から目が離せない。
開幕初日に行われた取材会には、ジョン役の小瀧 望、メアリー役の木下晴香、オドネル神父役の益岡 徹、演出家の瀬戸山美咲が登壇。始めに「この初日を迎えられたことは奇跡」と話す小瀧は2022年9月から歌稽古に取り組んでいたこと、リモートでボイストレーニングを行なっていたことを明かし、「ジャニーズ WESTではロック調の曲が多く喉を鳴らして歌う癖をとるのが大変でした。アイドルではなくジョンとして舞台に立つ姿を見てほしい」と意気込んだ。それに対して瀬戸山は「みんなを引っ張るような歌声になってきている」と小瀧を絶賛。また、ミュージカルを中心に数多くのヒット作に出演する木下は、「小瀧さんは初ミュージカル感がなくて、すごいなと思って見てました」と稽古場での様子を語り、小瀧は「木下さんの歌のパワーはすごいです! 追いつかないといけないと思ってモチベーションにもなる」とミュージカルならではの印象を吐露。ジョンとメアリーを中心に展開する物語を彩るのは、同じく存在感のある若者たち。演じるキャスト陣は同世代が多いとのことで「同世代がこんなに集まる作品はない。仲間感が大事な作品なので、チームワークを築けました」と小瀧がカンパニーについて語ると、「青春してるなぁと感じますし、みんな大好きで一緒に作品を作れて幸せです」と木下もにっこり。益岡は「みんなの中心に微笑ましいふたりがいて眩しかった。劇中での大人と若者との対比にも注目してもらえたら」とコメント。最後に本作の見どころについて小瀧は「登場人物の生命力とエネルギー。この時代の人たちは死と隣り合わせで生きている。120%で生きている生命力を感じてもらいたい。海を挟んで今もこういうことがあって戦争・紛争がいかに無意味かを伝えられる作品です」と回答。
若いパワーがあふれるカンパニーが送る、どんな社会情勢の中でも全力で一日一日を生きる若者たちの青春をぜひ劇場で感じてほしい。
『ザ・ビューティフル・ゲーム』
作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー
脚本・作詞:ベン・エルトン
上演台本・演出:瀬戸山美咲
振付:ケイティ・スペルマン
出演:小瀧 望(ジャニーズ WEST) 木下晴香 東 啓介 豊原江理佳 加藤梨里香
新里宏太 皇希 木暮真一郎 益岡 徹 ほか
【東京公演】2023年1月7日(土)~26日(木)日生劇場
【大阪公演】2023年2月4日(土)〜13日(月)梅田芸術劇場 メインホール
Words Ayako Nagaoka / Edit Kaori Watabe